私たちの生活が、なにかのきっかけで受動態から能動態へとスイッチが切り替わることは、ものの見方や考え方が一変するほどに革命的なできごとです――前回こう書きましたが、現代生活は服や食べものや家にかぎらず、あらゆるものやことが与えられる環境にあり、この革命はますます起きにくいでしょう。だからこそ、自分はどう生きたいのかを、概念でなく、からだで日々実践していったほうが身につくような気がします。
自分で「いいなあ」と思ったものがひとつでもあったなら、それを手にとって、よく観察してください。いままで気にも留めなかったために、それは汚れたりくすんだりしていませんでしょうか? あなたが「いいなあ」と思ったものは、じつはもっと「すてきだなあ」の可能性を秘めているのかもしれません。洗ってみましょうか?
あ、ちょっと待って。いきなり磨きパッドでこすったら傷つきますよ。その素材はなんですか? 陶器や磁器だったらまず布を使って水だけで、ガラスだったらスポンジと中性洗剤で、銀だったらリンネルと銀磨きで……と、持っているものの素材と性質を知って、それらを洗う洗剤や道具の成分や素材、粒子の細かさや硬さ、その使いかたもきちんと体得しなくてはなりません……サイエンスへの道ですね。
サイエンスは多岐に渡り無限に広がりますが、入り口は「いいなあ」と思ったあなたの美意識でした。たとえばそれがコーヒーカップだったとして、飲み口についたシミとか、コップの裏や取っ手の境目の水垢とか、ていねいに落として、ひと皮剥けたように美しくよみがえったら、あらたにオリジナルの状態を手に入れたも同然です。
あなたが気づいたことを人に強制する理由はないけれど、美しく保っているものを汚い手でさわられたときには、親しい間柄でも大いに怒るべし、ではないでしょうか。家族のみんながそれぞれに大切にしているものがあって、おたがいの美意識を認めあうまでの葛藤があり……人間の、もの言わぬものに接する態度、いたわりやもてなし、詳細を探求する姿勢……そういった日々の情操は子どもたちの心にも深く刻まれます。
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