header
07. ケガをしないために!
C
ケガの要因と予防法
ランニング障害の
発生要因と予防法
ここでは、ランニング障害が発生する要因について解説します。そして、ランニング障害の発生要因を知ることで、その予防策まで考えてみましょう。
運動要因 ランニング動作は、小さなジャンプと着地の繰りかえしです。ふつうのジョギング程度の速さで走る場合でも、着地時には、0.1秒ほどの短い時間内に体重の2 〜3 倍もの衝撃が、足に加わるといわれています。走る速度がさらに速ければ、もっと大きな着地衝撃を着地のたびに受けることになります。この着地衝撃が、足、足首、下腿、膝、太もも、股関節、腰へと伝わりながら、しだいに吸収されていきます。逆にいえば、着地するたびに衝撃が下半身のどこかにひずみとなって、蓄積していくということになるのです。

つまり、走るペースが速いほど、そして走る距離が長いほど、からだに大きな負担を強いることになり、ランニング障害発生の確率が高くなってしまうのです。また、週1〜2日走る人と、毎日走る人とでは、当然、毎日走る人の方がからだへの負担度が増します。そこで、走る速度、距離、頻度ともに無理をしないということが大切になってくるのです。
身体要因 学校のクラブ活動や、企業のチームなどで、チーム内でほぼ同一メニューの練習をおこなっている場合がよくありますが、同じ速度、同じ距離、同じ頻度で走っても、ランニング障害をおこす人とおこさない人がいます。これは、人によって、筋力や骨の形態にちがいがあるからと考えられます。

太ももやふくらはぎの筋力が強い人は、それだけランニングのときの着地衝撃を筋力で吸収することができます。筋力の弱い人は、その分、膝などの関節に余計な負担がかかってしまいます。ですから、ランニング障害をおこさないためにも、補助的に筋力を向上させるトレーニングを取りいれることをおすすめします。

また、筋力がじゅうぶんにあったとしても、“下肢のアライメント”によって、ランニング障害をおこしやすい人と、おこしにくい人にわけられます。下肢アライメントとは、膝のO脚・X脚、足アーチ高(土踏まずの高さ)、レッグ・ヒールアライメント(下腿とかかとの縦軸のなす角度)などの、骨と骨との連結状態をしめす指標です。

たとえば、O脚の程度の強い人は、膝の外側の炎症(腸脛靭帯炎)を、X脚の程度の強い人は、膝の内側の炎症(鵞足炎)をおこす確率が高いことがわかっています。さらに、土踏まずの高さが極端に低い人や、激しい練習によって土踏まずが低下したままの人が、無理をして走りすぎてしまうと、中足骨の疲労骨折をおこしたり、むこうずねの骨膜の炎症をおこしたりします。

このように、自分の筋力や下肢アライメントの状態を把握することができれば、それを改善する手段を取ることができます。下肢アライメントについてもっと知りたい人は、いちばん最後に紹介してある参考図書をチェックしてみてください。
環境要因 走る人をとりまく環境によっても、ランニング障害が発生する可能性があります。たとえば走路面に関連したことや、シューズの不適合などが、それにあてはまります。

走る路面は一般に、硬すぎず、弾力のある方が着地衝撃を小さくできます。公園内の整地された土や草地のコースを走るのなら、問題はありません。コンクリートは硬いため、その上を長く走ることは、あまりおすすめできません。アスファルトはコンクリートよりも粘弾性が高いので、比較的安全です。ただし、道路を走るときは注意が必要です。道路は、排水をうながすために、車道では中央はもっとも高く、側溝の部分がもっとも低くなり、歩道では、外側から内側(車道側)に向かって低くなっています。

かりに、道路左側の歩道を走りつづけると、左足には右足よりも大きな着地衝撃と、より強い足アーチの変形負担が加わってしまうのです。これは、陸上競技のトラックや周回コースを、左回りばかりで走りつづける場合にもおこることなのです。そうならないように、両側の歩道を走ったり、トラックや周回コースを右回りするなどの工夫を取りいれて、左右の足に加わる負担を、なるべく均等にするなどの工夫をするとよいでしょう(参考文献2)。

〔トラック左回りのカーブ走行時における左足の動き(参考文献2より)〕
illust illust illust
トラック左回りのカーブ走行時における、からだの内傾(左)。着地(中央)のあと、足のアーチにもっとも負担が加わり、大きな変形が生じているのがわかる(右)。

そのほか、シューズなどのランニンググッズを自分にあったものを使用することも、ランニング障害を予防するためには大切なことなのです。まずは、クッションの良いシューズを履くことで、靴に着地衝撃の多くを吸収してもらいましょう。また、足アーチの高さは人によってことなりますから、自分の足アーチ高にあった、アーチサポートをもつシューズを選びましょう。そうすれば、長く走っても、土踏まずへの負担を軽減させることができるのです。

その逆に、自分の足アーチ高にあっていない靴で長く走ってしまうと、足の痛みの原因になります。“足底板”とよばれる中敷を使うことで、下肢のアライメントを矯正することもおこなわれています。アメリカには、“足病医”と呼ばれる職業があるくらいですから、シューズが人の身体に与える影響の大きさが深く認識されているようです。みなさんも、シューズの大切さを認識していただければと思います。

最後になりますが、少しでも痛みを感じたら無理せずに、ランニング動作をひかえましょう。無理をすればするほど、ケガの程度が進んでしまい、治りにくくなってしまいます。痛みが強い場合は、スポーツ整形外科で受診することをおすすめします。

選手から、ランニング愛好家のみなさんまで、すべての人が快適なランニング生活をおくれるように、これからも走ることについていろいろと勉強していきましょう!

参考文献2
山本利春、沢木啓祐、水村信二「トラック左回りが足アーチに及ぼす影響―ランニング障害との関連性から―」『陸上競技マガジン 9月号 p232−235』1989

参考図書
山本利春「測定と評価―現場に活かすコンディショニングの科学―」『スポーツ医科学基礎講座3』ブックハウスHD 2001
(文:水村 信二 〜 プロファイルはこちらへ


A B C 07 top