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03. ゆっくり走る
B
“ゆっくり走る”と速くなる?
心肺機能が向上する ゆっくりとしたペースで走るための筋収縮エネルギーは、有酸素性機構によって作られます。前回も話しましたが、有酸素機構とは、筋収縮のエネルギーを供給するシステムの1つで、酸素と脂質などの化学反応時に発生するエネルギーによって、ATPを合成します。有酸素機構によって、筋収縮のエネルギーの多くがまかなわれる運動は、有酸素運動と呼ばれ、一般的に、運動強度の低い運動は、有酸素運動になります。まさに、ゆっくりペースでのランニングは、有酸素運動そのものなのです。

そして、有酸素運動では、筋収縮のエネルギーを作るために必要な酸素は、呼吸によって肺で血液中に取りこまれ、心臓の収縮によって血液は全身の筋肉へとゆきわたります。ですから、ゆっくりペースで走りつづけることによって、無理な負担をかけることなく、心臓や肺の働き(心肺機能)を向上させていくことになるのです。その結果、より多くの酸素が筋肉に運ばれるようになり、わたしたちはラクに走りつづけることができるようになるのです。
長距離向きの筋肉が
鍛えられる
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ゆっくり走る(LSD)トレーニングの運動強度と時間との関係図。低い運動強度で、長く走るのが、このトレーニングのポイントなのだ(赤い部分は、活動期をしめす)。
さらに、ゆっくり走ることによって、筋肉の持久力も向上します。わたしたちの筋肉を分類すると、“短距離向き”“長距離向き”“中距離向き”の筋肉の3種類になります。長距離向きの筋肉は、短距離や中距離向きの筋肉とくらべると、収縮によって発揮される力はずいぶん小さいのですが、そのかわり、収縮をたくさん繰りかえしても疲れにくいという性質をもっています。ゆっくりペースで長く走ると、短距離向きの筋肉や、中距離向きの筋肉があまり活動しないので、長距離向きの筋肉が重点的にきたえられることになります。それによって、より疲労しにくい長距離向きの筋肉ができあがっていくのです。

このように、“ゆっくり走る”と、心肺機能が向上し、しかも長距離向きの筋肉の機能が重点的に向上していくのです。これが、“ゆっくり走る”と速くなる、理由なのです。
(文:水村 信二)


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