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ATP供給系の特徴 |
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ところで、3つのATP供給系の特徴を、陸上競技の走る種目で考えてみると、つぎのような図表になります。 |
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陸上競技の走る種目と、3つのATPエネルギー供給系との関係図表。短距離から長距離になるにつれて、メインになるATPエネルギー供給系も、クレアチンリン酸系 → 乳酸系 → 酸化系へと、変化していくのがわかる。 |
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まず、短距離ですが、もし、100m全力疾走する場合、そのほとんどが無酸素性、とくに“クレアチンリン酸系”によって、筋収縮のエネルギーがまかなわれます。このとき、筋肉内ではクレアチン酸を分解して、ATPをもっとも短時間で供給しているのです。また、200mと400mの場合も、ほとんどが無酸素性ですが、“クレアチンリン酸系”だけではATPをまかないきれず、“乳酸系”も動員されます。このことから、200mをこえてからは、“乳酸系”がメインのエネルギー供給系になっていることがわかるのです。
つぎに、中距離の800m走の場合ですが、図表をみると、無酸素性と有酸素性の、両方のエネルギー供給系が関係していることがわかります。つまり、800m走は、無酸素性の“乳酸系”だけでなく、有酸素性の“酸化系”の両方のエネルギー供給系を必要とする、肉体的にとてもハードな種目ということになるのです。
最後に、長距離の1万m走です。有酸素系の“酸化系”があてはまり、時間あたりのエネルギー発生量はあまり多くないのですが、長時間の運動の継続には、このATP供給系が、いちばん有効なのです。
このように、走ることを競う陸上競技でも、その種目(距離)によって、メインとなるATPエネルギー供給系が異なるわけです。そして、いちばん最初にでてきた、イギリスのエーススプリンター、リンフォード・クリスティーが、“クレアチン”を摂取した理由が、じつはここにあったのです! |
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“クレアチン”摂取の理由 |
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バルセロナ・オリンピックで、イギリスの陸上短距離の代表選手、リンフォード・クリスティーは、爆発的なパワーを、オリンピックの100mのレース本番に発揮しようと考え、“クレアチン”を摂取し、筋肉内のATP供給をよりすみやかにおこなおうとしたのです。
実験では、1日あたり20グラムのクレアチンを、5日間連続摂取することによって、筋肉内のクレアチンリン酸の量は1割から3割ほど増えます。6日目以降は、1日あたり数グラムの“クレアチン”を摂取することで、筋肉内のクレアチン量が高いレベルで維持されます。この方法のおかげで、リンフォード・クリスティーは、アメリカのカール・ルイスを破り、100mで金メダルを獲得したといわれているのです。これこそが、筋肉の内部でおこっているさまざまな反応を、スポーツそのものに生かした好例といえるのです。
まさに、走るためには筋肉の理解が大切ということなのですね! |
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(文:水村 信二 〜 プロファイルはこちらへ) |
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