約2kmにおよぶ散策路の終点は、大室山の麓に位置する広場。「いままで見てきた樹海はここで終わり、ふつうの森林がはじまります」。福田さんの言葉どおり、目の前にはいかにも明るい落葉樹の原生林、振り返れば溶岩上に広がる樹海と、そこにははっきり雰囲気の異なるふたつの森がありました。 そんな境界線上にある広場にイスを並べておにぎりランチ。久しぶりに、しっかりと地面に根を張った木々を目にすると、なんとなくホッとした気分になります。 「このあたりの標高は1100mくらいあります。溶岩によって作り出された不思議な景観や風穴を楽しめるだけでなく、わざわざ山登りをしなくても標高1100mの世界が体験できるのも、樹海歩きの魅力ですね。しかも、誰かとすれちがうことがほとんどないくらい、いつも空いているので、樹海を独り占めしているような贅沢な気分も味わえます」と福田さん。 食後は、まわりに広がる原生林をのんびりと散策し、樹齢400年以上というブナやミズナラの巨木を巡りました。その生命力にあふれ、存在感たっぷりのオーラを放つ姿は、まさにマザーツリー(母なる木)のようでした。 福田さんが“サロンパスの木”と呼ぶ梓(あずさ)の樹皮に鼻を近づけると、スーッと爽やかな鎮痛消炎剤の香りがしました。白い幹にはクマの爪跡がくっきり。福田さんは、その位置からクマの身長は120cm前後ではないかと推測していました。 ついさっきまで溶岩の固い地面を歩いていたので、大室山の大地を踏みしめながら、「ああ、土ってこんなにフカフカでやわらかかったんだ」と、しみじみ。 ところで、「樹海ではケータイが使えなくなってしまう」という巷のウワサはほんとうなのでしょうか。福田さんに尋ねてみると、「いえ、アンテナはちゃんと立っていますよ」という答え。「ただし、樹海の外からは電話がかかってくるし、話すこともできますが、樹海の中からかけることはできません」。 どうやら、このあたりのケータイ電波中継基地の出力の問題らしいのですが、ケータイ会社に問い合わせたりして、さらに深く追求するのはやめておきました。「カカッテクルケド、カケラレナイ」という不思議な状況が、なんとも樹海らしくて、いい感じなので。 |