「ところで、樹海では方位磁石が使えない、という話はほんとうだと思いますか?」。福田さんがニコニコ笑いながら、方位磁石を取り出しました。全員でそれを囲みながら、じっと見つめます。しかし、針はピクリとも動きません。 「こうすると、どうでしょう?」。方位磁石を地面の溶岩に近づけると、あれれ。針が左右にユラユラと揺れ動いて止まらなくなりました。「溶岩がなんらかの磁力を含んでいるから針が動いてしまうんです。しかし、溶岩に近づけなければ磁石はふつうに使えるので、これが原因で道に迷うことはありません」。 なるほど。樹海のナゾが、早くもひとつ解明されました。と、そのとき、「ナントカ県から来たナントカさん、ご家族が心配していますので、出てきてくださーい!」という警察らしきアナウンスが、遠くから聞こえてきました。 「樹海で自殺しようとする前に、家族へ電話をかける人が多いんですよ」と、福田さん。そういえば忘れていたけど、樹海といえば自殺の名所……まさかヘンなものと遭遇したりしませんよね? 「大丈夫、先ほど車を降りた開拓道路によって、青木ヶ原の樹海はふたつに分断されているんです。私たち側の樹海は、近くにバス停がないので、そういう目的の方はまず来ません」。 ちなみに、これまでに何十人も救出したという福田さんによると、自殺希望者はたいていコンビニの袋やビニール傘をぶら下げて樹海を歩いているそうです。 物騒なアナウンスが遠ざかり、再び静寂がもどってきた森を前進。それにしても、どうしてこんなに倒木が多いのでしょうか。 「しっかり根が張れない環境なので、背が高く順調に育ったオール5タイプの木は、なにかの拍子に倒れたり傾いたりします。それよりも、ほどほどに成長したオール3の木のほうが、長生きするんですよ。高台からこの森を眺めると、そんなオール3の低い木々が果てしなく連なっていて、まさに“樹の海”のような景色を作り出しています」。 |