福田さんの運転するツアーバスに乗りこみ、道の駅から約10分で青木ヶ原樹海の入り口に到着。車を降りた瞬間、早くも不思議な静けさに包まれます。リゾートとして名高い富士五湖エリアにありながら、夏のにぎわいがまったく届かない森。各自のヘルメットとお弁当、お茶を受け取り、樹海の中へ延びる散策路を歩きはじめました。 「この青木ヶ原樹海は天然記念物に指定されています。ルートからはずれて歩いたり、ごみを捨てたり、木の実や葉っぱなどを持ち帰ったりする行為は禁じられていますから、守ってくださいね」と福田さん。 森の樹木は、どれも岩盤の上に立ったり、腰掛けたりしているように見えます。むき出しになった根が、隣の木の根とからみあっていたり、ヘビのようにニョロニョロと岩盤の隙間に入っていたり。土中に根を張ることができないため、横へ横へと根を広げていくしかないのでしょう。その姿は、根を張らなくても生きていけるエアプランツのようでした。 「ここには土がなく、光も届かないため、花が咲くような植物は育ちませんし、虫もいません。しかも地中は穴だらけの溶岩ですから、どんなに大雨が降っても、水たまりができないんです」。 そうして地下深く染みこんだ水は、近場の忍野八海(山梨県南都留郡忍野村)をはじめ、浅間神社や白糸の滝(どちらも静岡県富士宮市)、柿田川(静岡県三島市)などの遠方でも湧き出ているとか。なるほど、たしかにいずれも“名水の地”として有名なところばかりです。 福田さんが、男の子に「ほら、“森のエビフライ”だよ」となにやら手渡しました。のぞきこむと、ほんとうにエビフライのような形をしています。その正体は、リスがガリガリとかじったゴヨウマツの種子の残骸。ゴヨウマツやツガの木の下など、リスたちの食事場所を福田さんは“リスのテーブル”と呼んでいるそうです。 |