![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ずっと直進していたボートが水道橋あたりで、大きく右に旋回。昌平橋でみたお茶の水分水路の入り口にあたる、水道橋分水路へと向っているのです。「ここは洪水を軽減するため、水を分けて流す、いわば川のバイパスですね」と中林さん。まるでブラックホール、巨大な蟻地獄を思わせるトンネルの入り口に、珠のれんのように蔦が下がっていて、シュールな現代アートギャラリー風。都市を支える裏方の迫力に圧倒されながら、非日常空間をあとにしました。 さて、後楽橋をくぐり、神田川から日本橋川へ。緑あふれる風景がグレーの世界へ変わる様子は回り舞台のごとし。晴天のはずなのにあたりが薄暗くなったのは、高速道路の高架がフタをしているからです。 「光が入らないうえに、川の側面、底と三面コンクリート張りのため、植物性プランクトンも生じない。酸素不足、餌不足と、生物の生息にはたいへん厳しい環境になっています。この状況を立て直すべく、有志によるEM菌(腐敗菌を抑える効力を持つ有用微生物群)投入など、水質改善のための試みがなされているんです」と中林さん。 都内最古の石造りの橋である旧常磐橋に、江戸時代から残る武家屋敷の石積。そして御影石で作られた日本橋。下から見上げる欄干の麒麟や獅子の気高さ。聖橋のように、青空の下でこの貴重な文化財や建築物を眺められたらさぞやすばらしかっただろうと、惜しまれます。 ボートは日本橋川の河口、豊海橋を抜けて、隅田川へ。スタート地点の勝どきへと帰還の道をたどります。わずか数時間の川遊び体験でしたが、「あの」神田川がこれほどゆたかな歴史と文化を持ち、生物を育んでいる現実に驚きました。この川は単なるコンクリート製の排水溝ではなく、人々や生物が集う心安らぐ水辺になりうるんだ、ということも。今日から排水溝の向こうは、鮎たちが泳ぐ神田川なのだ、と心に刻みながら台所に立とう。そう決意しながら、ボートを降りたのでした。 ![]() |
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