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09. 箱根駅伝を楽しむ
B
箱根をめざすトレーニング
藤田敦史選手の
トレーニング日誌
通常、選手の練習計画やコンディションについては企業秘密のようなもので、あまり教えたがらないものですが、2つの学生記録と現在の男子マラソン日本最高記録を樹立した藤田 敦史選手は、『陸上競技研究』(第42号 2000、No.3)という研究誌で、4年間のトレーニング実績を、練習日誌の掲載というかたちで公表しています。高校時代はまったく無名だったランナーが、箱根駅伝をはじめとして多くの試合で活躍した背景には、1日1日の積みかさねがあることを、その練習日誌は物語っていました。

毎日、朝夕の体重、睡眠時間、起きたときの脈拍(疲労すると安静時心拍数が増えてくる)を記録することで体調を考え、朝練習、午前練習、午後練習の内容と距離を、克明につづっています。その内容はJog(ジョギング)を中心にして、長距離の持久的な能力のベースをつくり、試合前にスピード練習をうまく組みいれたものでした。

月間走行距離は1、2年時では600〜700km、本人が意識改革したといっている3年時から4年時にかけては800〜900kmにおよび、4年時の8月には1139kmという驚異的な走りこみをおこなっていました。また、補強運動として、腹筋(100×2)、腕立て(30×2)、懸垂をおこなって、身体づくリを怠っていなかったことも印象的でした。

〔藤田選手の1週間の練習実績と体調チェック表〕
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藤田選手の大学3年の8月の練習日誌。ただ単に距離を伸ばすだけではなく、考えたトレーニングをおこなうことで、タイムを伸ばし、それが箱根駅伝の好成績にむすびつくことになった。
選手たちの年間の
スケジュール
その年の箱根駅伝が終わったときから、次の年への準備がはじまる。つまり、箱根をめざす選手たちにとって、年間計画のカレンダーは1月4日からはじまります。1〜3月までは気温が低いので、走りこみができる時期です。また、ロードレースを中心にして、ハーフマラソンや20kmレースなど、比較的距離の長い試合に出て、ロードレースの実績を積んでいきます。

4月になるとトラックシーズンが開幕し、全国のいろいろな場所で記録会がおこなわれます。学生は、5月にある関東IC(関東学生対校陸上競技選手権大会)に向けて、状態を仕上げていきます。その後、7〜9月は気温も上がり、朝や夕方に練習をもっていかないとなかなかトレーニング効果が上がらなくなるため、夏期休暇を利用して長期合宿を組みます。箱根出場を狙っている大学は、1か月以上の期間、暑さを気にしないで練習できる合宿地をわたり歩くことになります。

大学が後期に入って授業が開始されると、秋のシーズンに向けてスピード強化がはじまります。シード校以外は、10月下旬に箱根の予選会があるので、20kmの記録を意識したコンディショング作りをすることになります。一方、シード校は10月末まで走りこむことができるので、本選では有利ということができるわけです。また、シード校は、出雲駅伝や全日本大学駅伝にも、疲れを残すことなく調整することができるのです。

そして、いよいよ11〜12月は調子を上げていくための重要なコンディショニングの期間になります。この時期に夏に走りこんだ疲労が出て、故障につながる場合があるので、とくに体調には注意が必要です。12月10日には補欠をふくめた14人のエントリー、29日には区間エントリーをおこない、本番をむかえることになるのです。
(文:沼澤 秀雄)


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