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01. ラン、走ります!
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走ることのルーツ
走ることとオリンピック
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ギリシャで発掘された、古代オリンピックの競技場。この競技場のタテ、“1スタディオン(192m)”の一直線で、当時のギリシャ最速の男を決する短距離走がおこなわれた。
現在、競技スポーツ最大の祭典といえばオリンピックです。なかでも、人類最速を決する陸上競技100mは、毎回もっとも注目される種目の1つです。数あるスポーツのなか、あっという間に終わってしまい、しかもまっすぐ走るだけのこのシンプルな競技種目が、どうして世界の注目の的になるのでしょうか? そのヒントを探るために、近代オリンピックの前身となる、“古代オリンピック”に関する資料から、競技スポーツとしての走ること、そのルーツを探ってみましょう。

古代オリンピックは、紀元前776年の第1回大会から4年ごとに開催され、393年まで、じつに1200年もの長きにわたって続いた、古代ギリシャ時代の芸術とスポーツの祭典なのです。この古代オリンピックでは、1回大会が開催されてから第13回大会までの約50年間、たった1つの競技が行われていました。その競技は“1スタディオン”と呼ばれる短距離走です。スタディオンは、競技場を意味する言葉で、この競技場は現在の陸上競技場をさらに細長くした形で、そこには長さ約192m、幅約28mの直線走路があり、一度に20名までが走れるようになっていました。そして、この直線走路を誰がいちばん速くゴールするかを競った短距離走のことを、“1スタディオン”というのです。
古代オリンピックと
近代オリンピックの短距離走
第1回大会では、予選が4回行われ、決勝では8名が出場して競争したと伝えられています。現在の短距離種目(100m、200m、400m)も、決勝は8名で行われています。そして、オリンピックや世界陸上大会で決勝まで進んだ8名は、ファイナリストと称され、世界の一流選手としてたたえられます。はるか昔からファイナリストは8名だっ たのです。

さて、近代オリンピックの陸上競技の短距離走で、もっとも距離の短い種目はご存知のとおり100mです。なぜ、古代オリンピアでは短距離走の距離が、“1スタディオン(192m)”だったのでしょうか? 記録の面から推測してみると、現在の100mの世界記録は、モーリス・グリーン(米)の9秒79です。この記録を2倍すると、19秒58になり、マイケル・ジョンソン(米)の200m世界記録、19秒32とくらべてみると、200mのほうが100mよりも速いのです。もちろん、瞬間的な最大のスピードでは100mのほうが速いのですが、平均速度では200mのほうが100mを上まわっており、平均速度でいうと、この200mこそ、人類がもっともスピードが出せる短距離走ということになるのです。そして、この距離が古代オリンピアの1スタディオンとほぼおなじというわけで、古代ギリシャ人は当時から、人類最速を決する距離が約200mであることを知っていたのではないか、と思えてしまうほどなのです。

このように、走ることは、スポーツの世界でもっとも古い競技であり、そしてもっとも人気のある競技であったことがうかがえるのです。
(文:水村 信二)


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