訪問・その17 東洋インキを訪ねて解明……“大豆インキ”の謎
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■“大豆油”でインキを作る……なぜ?

NN:たしかに、石油は有限の資源ですし、環境への影響も考えると、植物油を使うようになったということは自然な流れかもしれませんが、いつごろから大豆油を使うようになったのですか?

東洋インキ:大豆などから抽出した植物油を用いたインキの開発がはじまったのは、1970年代のアメリカです。オイルショックの影響で、石油の価格変動が激しくなり、安定した供給がむずかしくなりました。そこで、全米新聞協会という団体が、石油ベースのインキの代用品について、調査・研究を進めることになったのです。

また同時期、アメリカでは、石油系溶剤による大気汚染が深刻になっていました。環境保護のために制定された、[大気清浄法]による“揮発性有機化合物規制”に対応するため、溶剤の一部を、揮発の際の毒性のない植物油……大豆油に置き換えた大豆インキが開発されたのです。アメリカは世界第1の大豆生産国ですから、原料が手に入れやすく、石油資源の消費抑制につながるという利点もありました。


NN:溶剤を植物性に代えれば、環境への負荷も減らせる……これで、一件落着でしょうか?

東洋インキ:残念ながら、そういうわけにはいきません。石油と植物油(大豆油)は、成分もちがいますから、当初は、従来のインキと同じような品質を保つことは、大変むずかしかったようです。

たとえば、植物油は揮発しにくいので、印刷後のインキの乾燥に時間がかかり、紙に対するインキのなじみが悪くなるという問題がありました。石油系の溶剤を減らせば減らすほど……早く、きれいに、印刷することができない、つまり、印刷の“精度”が下がってしまうのです。さらに、植物油の単価は石油よりも高いため、インキ自体の価格も高くなる、というデメリットもありました。


NN:環境対策としてメリットがあっても、印刷の質が悪くなるんじゃ困りますね。

東洋インキ:たしかに、印刷で重要なのは“刷りあがりの質”なのです。時間とコストがかかるうえに、質が低下してしまうという問題には頭を悩ませたようですが、その後、さまざまな技術の改善を重ね、実際に新聞の印刷などで使用されるようになったのは、はじめの調査から10年近く経た1987年でした。さらに、技術の革新が進み、現在では、アメリカで発行されている新聞の90%が、大豆インキで印刷されるようになっているといいます。
ふだん目にすることはありませんが、これが製品としてのインキの姿……“TK ハイユニティ SOY”です。
ふだん目にすることはありませんが、これが製品としてのインキの姿……“TK ハイユニティ SOY”です。
NN:そこで……“PRINTED WITH SOY INK”というマークが、登場するわけですね。

東洋インキ:このマークは“ソイシール”といいますが、アメリカ大豆協会(ASA)により認められたインキを使って印刷した、という証(あかし)です。ただし、印刷目的によって、インキ中の大豆油含有量の認定基準は異なります。ポスターや写真集、カタログなどの一般的なカラー印刷に使われるインキ(枝葉インキ)では、インキの20%以上、新聞用のインキ(黒)では40%以上、雑誌やチラシなどのインキ(オフ輪インキ)では7%以上、大豆油を使っていなければ、このマークをつけることができないのです。

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