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| ■ |  | クロスくん、大自然のなかに…… |  
|  |  | 『ビシュッ!』と1投目をなげるボク。だが、フライはマトに入らない。
 
 “もう一度!”
 
 何度も繰りかえすが、マトにはってある水を揺らすことができない。となりでは、岡本さんが水面に連続で波紋を作りだしている。
 
 “どうして……”
 “クロスくん、緊張しないで!  釣りをしてるときみたいに、リラックスして”
 
 岡本さんの言葉に、ボクは高校までいた北海道で、友だちと釣りをしながら遊んだことを思いだしていた……『シュッ!  パシャッ!』同時に、マトをゲットするボク。
 
 “そうそう。キャスティングは見た目より、だいぶメンタルなスポーツ。だから、自分と戦って勝つことが重要なんだ。いまみたいに、それができれば……ク、クロスくん?”
 
 そこには、キャスティングをしていることを、すっかり忘れてしまっているクロスくんがいた。
 
 “北海道の大自然、自由な、束縛のない世界、なにもかもなつかしい……。
 
 ちょっと現実逃避気味のクロスくんを、あたたかく見まもる岡本さんであった。
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