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諸星大二郎『異界録』
【引用図版・6】 『異界録』双葉社89年刊・所収 39頁



これは自然のついての話ではなく、観念の話にすぎないだろうか?
いや、もしも私にとってもっとも身近な自然が私のからだであるなら、私にとってこれらの伝奇譚はもっとも身近な自然についての説話にもなる。
私のからだへと自分の意識を近づけてゆく体験のなかに、たしかに諸星の世界観がリアルに思える場所があるのだ。

そして、都会化した世界では、最後に残された身体という自然が、日常的に脅かされている。
だからこそ一部の人たちは、こうした心身相関領域でのちょっとした体験から超自然現象へと、一気に飛躍したがるのである。
諸星のマンガが、この時代に受け入れられる意味はそこにある。

裏返しに引き込まれる人間の、まことに奇妙な画像は、戦後マンガという表現が可能にしたものだ[図6]。伝統的な説話には、ここまで説明的な、コマに分節された画像は当然ない。

たぶん、このこと自体、私たちが自分自身のからだ(自然)からどれだけ離れているかを示している。
諸星のマンガは、そうした時代感覚の隠喩としても読める。




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