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高野文子『絶対安全剃刀』
【引用図版・4】 白泉社82年刊・所収 187頁



高野文子は、どこにでもある、誰にでもある日常に、深く入り込む。
その手法は、戦後マンガの主流をなした活劇や主人公の成長物語という、
劇的なロマンとは正反対の印象を受ける。
けれど、60年代貸本マンガに始まる日常的で内面的な描写の完成は、
あきらかにほかのマンガに影響を与え、活劇をささえる日常の、
深い陰翳を与える描写となって、手法的に全体に組み込まれた。
寡作で、けして大部数売れるわけではない高野のマンガが貴重なのは、
作品の存在が、なにげない日常そのものの価値や意味を象徴しているからだ。

海のなごりを感じる子どもの目線に、
読者を納得させずにおかない何かがあるように。

『玄関』の主人公の少女は、じつは海が、水がこわいのである。
彼女は、夏の初めに波打ちぎわで波にのまれ、おぼれかけ、
それからプールにも入れなくなっている[図4]。
この遠景も、わずか1コマで、彼女の心の傷を、
繊細な恐怖を、ごく日常的で端的な点景として切り取っている。




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