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高野文子『絶対安全剃刀』
【引用図版・3】 白泉社82年刊・所収 178頁



ページをめくると、天井の木目[図3]。
そして、子どもの足、手。
影になった友達と、よしずと風鈴。
ひんやりした畳の感覚や、頬をすぎる風や、体のほてりまで思い出す。
そう、そう。
こうして寝ころんでは、海のなごりを感じていたんだよなぁ。

まったく高野文子は、人の主観に入り込む名人だ。
主観をつくる画像構成を、これほど見事にマンガ化してみせる作家は少ない。
簡略で的確な絵と、あざとさのない考え抜かれたコマ構成で、
読者に生々しい既視感を与える。

むろん主観的視界を多用して、内面的表現をつくるのは日本マンガの得意技だ。
が、70年代に、おもに少女マンガによって成熟する、この手法を、
その先端で洗練させたのが高野文子だった。
『玄関』は、1981年の作品である。




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