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近藤ようこ「空ゆく雲」
【引用図版・3】 『水鏡奇譚』下巻(第十二話)角川書店 92年刊・所収 160頁



人物には目鼻がない[図3]。

目鼻がないことで、遠さが感じられ、空の高さが感じられる。

いや、雲が早く流れる空は、案外低く近く感じられるから、ここは空が地上につくぐらい迫った感じといったほうがいいだろうか。

風は、空の一部なんだろうか。

空が動いて頬にたたきつけるのだろうか。

目鼻のない人物は、表情を奪われ、内面を削られる。

人のどろどろした情念を描く、この作家が、あえて顔を消すとき、読者はすうっと風景に気持ちの焦点をあわせる。

この人物たちは、何も考えてはいないだろう。

ただ、風と空に気持ちをもっていかれているのだろうな。




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