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近藤ようこ「空ゆく雲」 【引用図版・4】 『水鏡奇譚』下巻(第十二話)角川書店 92年刊・所収 162〜163頁 |
昔、中学生の頃、高尾山に上り、大きな空と風と、ただそこにある岩に、何だかしらないがやけに感動したことがある。 陽で温まった石の上に寝ころんで、空を眺めていた。 疲れとか汗が、ずいぶん気持ちのいいものだと思った。 東京に戻って、ビルの天井に仕切られた、不規則に角ばった空をみて、あらためて奇妙な感じをもった。 ここで、俺は生まれ育ったのだ、と。 東京の生まれのくせに人混みがきらいだった。今でも行列に並ぶのが大きらいだ。 少女が風で吹きこぼれた花を口にあてる[図4]。 それをまた風がもってゆく。髪がふわっと膨らむ。 それだけだ。 背景も何もない。 あるいは、不本意に連載を途中で終えることになった作者は、何も考えず、人物の内面も感じさせない、すっからかんな挿話(というより、ただの風景)を描こうとしたのかもしれない。 この11頁には、事件もセリフもない。 風景と気持ちが同じレベルで混在した何かがあるだけだ。 風を思わせる草原のそよぎ、髪の膨らみは、宮崎 駿のアニメを連想させる。 そこには、見えない風を感じさせる動きがある。 それでじゅうぶんだ、といいたげだ。 |