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近藤ようこ「空ゆく雲」
【引用図版・2】『水鏡奇譚』下巻(第十二話)角川書店 92年刊・所収 160〜161頁


近藤 ようこは、日本中世を舞台にしたマンガをいくつも描いている。

『水鏡奇譚』は、少年と少女の遍歴怪異譚シリーズだが、未完に終わった。

その最終話「空ゆく雲」は、11頁に扉絵も含めてわずか14コマで、ただ草原を歩く二人と、風と空だけを描いている。

二人が腰までのびた草原を歩き、鳥が過ぎる。

鳥の影に、少女がふと空を見上げる。

次の頁をめくると、見開きいっぱいの雲影の素早く走る草原に、ぽつんと二人が立っている[図2]。

見事な空の描写だと思った。

草の線と雲の影のスクリーントーンだけを、ぶっきらぼうに置いただけで、空自体を描いていない。なのに、そこには空が感じられる。

まるで、雲影の走る草原が空の鏡であるかのようだ。




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