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森雅之『音楽』
【引用図版・2】『耳の散歩』朝日ソノラマ 98年刊・所収 42頁


森雅之の風景は、何でもないように描かれているけれど、何でもなさに触感がある。風や視角の遠さが、単純で記号的な絵に自然と感じられる。草のそよぎも聞こえる。絵は、単純に見えるから情報量が少ないわけではないという見本のようなものだ。

たとえば、街を抱いた山に雨がふる[図2]。

コマの上3分の2を空が切り取り、ざっくりした感触の線分で雨がふる。

“さぁさぁ”とか“し……ん”とかの擬音・擬態語はいらない。

ところどころ斜めにかしいだ線分たちが、雨の勢いを語っている。垂直に描かれた雨滴なら、もっと速度と量のある“ざかざか”ふる様子になるだろう。しめやかにふる雨だから、静かなのだ。




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