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第五回「浮遊感覚」 たむらしげる『銀河の魚』について


少年と老人が湖のある山中で天体観測や魚釣りをして暮らしている。

ある日、こぐま座に凶星が加わって、天の川の星を喰らう怪魚になったのを発見し、二人で小舟にのり、怪魚退治に出る。

小舟は川を遡る。川岸では木人(ぼくじん)がつぶやき、夕空にはねぐらに帰る鳥人が飛ぶ。川を遡ると天の川に通じるのだ。

不思議なファンタジー世界をあたりまえのように過ぎて、老人が少年にいう。

“水の底を見てごらん”

そしてページをめくると、2ページ見開きにわたって、ボートの下、川の底に広がる夜の町が見下ろせる[図1]。

静かにたたずむ町。川の下に流れる川。

いつか夢でみたような既視感のある浮遊感覚。

たむらしげる『銀河の魚』(80年)の1場面だ。



img たむらしげる『銀河の魚』
【引用図版・1】
『スモール・プラネット』青林堂
85年刊・所収 30〜31頁


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