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杉浦日向子『風流江戸雀』 月刊潮83〜87年連載 【引用図版・5】 潮出版 87年刊 15頁



同じように雪を描いても、その一粒ずつを記号のように描いたらどうなるか[図5]。まるで印象が違うのがわかるだろう。

『風流江戸雀』で、雪見の風流を気取った粋がり達が、ただ寒い思いをしたあげく、家でこたつに丸まり、湯豆腐こそが風流だと強がりをいう。

そんな軽妙な短編にふさわしい、軽い記号的な絵になっている。

風景に与えられた「し…ん…」という音喩は、音のない状態をあらわすだけでなく、風流風流と騒ぐ連中の前に、じつは何もないからっぽさがあるという意味でもある。

絵全体が、おかしみのある記号となっている。

雪は丸くて、かわいい。ただ、しんしんと降っていて『YASUJI東京』の雪のようにぼたぼた呵責なく降ってはいないのだ。

雪を描きわけ、絵の意味をかえてしまう杉浦の感性は、多分彼女の中で江戸的な繊細さ、微妙なイメージの差異にこだわる面白さに通じているのだろう。




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