ttl


image
【引用図版・1-2】 筑摩書房『滝田ゆう漫画館 第二巻 寺島町奇譚[下]』所収 「カンカン簾」36頁


滝田の原画をみてびっくりしたのは、線の細さだった。針で描いたんじゃないかと思うほどの線をよりあわせて、不確かなのに鮮明な幼少時の記憶の世界を、頼りなげに、かつ明確に描いている。

記憶の世界の矛盾。線は作家の世界観なのだ。

防火用水の後ろの木造家屋の線はへなへなして見えるが、次のコマの夏の日ざしを返す水面はくっきりと、これと似た記憶を呼び戻すし、ホウセンカの葉の肌を通る光は細い線のちょっとした陰でちゃんと感じられる[図1-2]。

明確で印象的なのに、はかない記憶の風景。

作家の子ども時代を描いたこの連作の最後に、この町が空襲で燃え尽きてゆく様が描かれたが、そうして滅びてしまうことを、彼のへなへなした線が予告していたかのようだ。




ttl