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【引用図版・2-1】筑摩書房『滝田ゆう漫画館 第二巻 寺島町奇譚[下]』所収 「カンカン簾」37頁



60年代、戦後20数年をへて、まだかろうじて残っていた下町の風景は、今度は高度経済成長という戦争で次々と取り壊されていった。

この連作発表の頃、東京に住んでいた私達はまさにそうした喪失感のただ中にいた。滝田は、そんなせつなさをマンガで表現できることを証明してみせたのだ。

私達は、その後高層ビルと高速道路と舗装道路の町に住むことになった。

でも考えてみれば、こうしたささやかな「自然」の取り込みは、今だってマンションのベランダやオープンカフェの観葉植物などに引き継がれている。

花街の客と遊女が、昼過ぎにでれでれと歩く。すでに顔を垂れた朝顔をさして客が卑猥な冗談をいう。昔、下町のどこにでもあった朝顔の棚と、その季節感、昼にはしぼんでしまう花の性質を取り込んで、男女が短い言葉でやりとりする[図2-1]。

滝田が再現したのは、ただ下町的な風景なんじゃなくて、身をよせあうようにして暮らした人々の、気持ちのいきかいとしての風景だし、季節感なんだっていうのがわかる。

これもまた、私からみれば都市的な「自然」感性だと思うのだけど、気持ちに余裕がないとなかなかできない気もする。




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