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出典/谷口ジロー『歩く人』講談社92年刊・120頁 初出/モーニングパーティ増刊 90〜91年連載



どのみち住民のほとんどが都市民になった日本で、どこにでもいるような人間が出会 うのは、せいぜい大都市周辺の、かつての農村を切り開いた新興住宅地的「自然」な のだ。でも、そんないじましい「自然」にだって慰安や幸福を感じるのが人間っても のである。

という都市民的な生活感の上に、ひたすら何となく歩く男の淡々とした話を描いた短 編集が谷口ジロー『歩く人』だ。郊外の借家に越してきたらしい夫婦(多分30代)の 、眼鏡をかけた典型的な会社員男が、ほとんど会話もない描写の中で、ただ散歩して 風景に驚いたり、木にひっかかった子どもの飛行機をとりに木のぼりしたり、そんな 話だ。休みの日に、まだもの珍しい郊外の風景に惹かれて歩くうち迷ったり、空き地 に咲いた見事な桜の元で寝てみたりする。私自身こういうアテのない町の散歩が好き なので、なんかシュミレーションしているみたいに読める。



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