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第54回(最終回)
夢から現実へ・その3 “省エネ運転と植林のすすめ”
文/舘内 端


■削減と吸収

夢を語るのはたやすい。未来に希望を託せないわけではない。しかし、問題は現実だ。

現実から目をそらすことなく、しっかり見つめ、少しでも改善してはじめて、人とクルマと自然が共生できる夢を現実のものにでき、未来を明るくできる。

だが、あまりにも過大な改善策では息が切れるし、持続できない。私たちにできる、持続可能な方法を見つける必要がある。

さて、何度も述べているように、自動車の大きな問題はCO2の排出による地球温暖化と、石油需給の逼迫(ひっぱく)による世界政治の不安定化だ。

この2つの問題を少しでも軽くするには、2つの方法がある。ひとつは、石油の消費量を減らして、需給の逼迫を遅らせ、なおかつCO2排出量を抑制し、地球温暖化の速度を鈍らせることだ。このための具体的な方策は、省エネ運転の励行である。

しかし、これだけでは地球温暖化のスピードに、生活や経済の防衛策が追いつけないだろう。もっと積極的に地球温暖化防止に取り組む必要がある。

それが2つめの方法であり、すでに排出され増加してしまったCO2を吸収することである。具体的には、植林である。

CO2排出量の“削減”と、すでに増大したCO2の“吸収”の2本立ての対策が必要だ。

■木を伐る

植林が大事といっているのに、“木を伐る”というのは乱暴である。しかし、樹齢を重ねた木が吸収するCO2は少ない。こうした木を伐採して、若木を植えることが大切だ。

しかし、その老木を燃やしてしまっては、せっかくその木が吸収したCO2を再び大気中に放出させてしまう。家屋や家具を造ることで、せめて100年は手元に置きたい。それが、木に対する礼儀でもあろう。100年も乗れる木造自動車は、そうした発想なのだ。

また、下枝や下草を伐採して、若木が成長しやすいよう、森を守ることも大事だ。さらに、植生を乱さない植林も大事である。杉の木ばかりではなく、広葉樹も植林しよう。

だが、これらは私たち素人に容易にできる話ではない。専門知識も、体力も、経験も必要だ。また、植林に出かける時間のない人も、からだが不自由な人もいる。北海道での植林に九州から出かけたのでは、往復の交通で発生するCO2も無視できない。

ボランティアで植林を行なったり、自然にふれることで意識を高めたり、それを教育の一環で行なうほかに、植林の専門家が、現地で行なう植林を援助することが必要ではないだろうか。そのためには、植林が事業としてきちんと成り立つようにしなければならない。

植林に結びつくようなカードの発行、あるいは植林のための料金が少しばかり上乗せされた商品の開発、植林募金など、生活のすぐそばに植林に参加できるシステムがあると、うれしい。

■省エネ運転の開発

たとえば、運転免許教習所で運転教習の一環として省エネ運転方法を教えたり、あるいはすでに免許を持っている人に対して、別途、省エネ運転を講習したりという、方法がないわけではない。

少子化で運転免許取得者が減少している昨今、教習所の新しい経営科目になるのではないだろうか。この場合には、ぜひ政府の援助が欲しいものだ。

省エネ運転ライセンスの発行というのはどうだろうか。JAF公認のモータースポーツに参加するには、競技ライセンスが必要である。これは競技の種目によってB級、A級、国際A級、スーパーと別れている。高度な競技に参加するには、高度なテクニックが要求され、上級のライセンスを取得しなければならない。

同様のシステムで、省エネ運転Cライセンスとか、Bライセンスとか、最上級の省エネ運転ゴールドライセンスとか、そうしたライセンスを発行する。

しかし、取得したからといってステータスになるだけで、なんの得にもならないのでは少々寂しい。そこで、提携した高級レストランやホテルで割り引きが効いたり、人気のコンサートのチケットが優先予約できたり、あるいはゴールドライセンス所有者しか入れないプレミアムな催しものを開催したりといった特典があるとうれしい。

年に一度の省エネ運転コンテストもやってみたい。高校野球のように県予選を行なって、ゴールドライセンス所有者の中から出場者を選抜し、全国大会を行なう。上位10名は、総理大臣表彰が受けられ、省エネ運転世界選手権に出場できる。

その前に、しっかりとした省エネ運転テクニックを調査・研究しておく必要があるだろう。健康法と同じで、じつにさまざまな私家版省エネ運転法があって、かならずしも定式化されているわけではないからだ。

これらの省エネ運転普及施策は順次、実行に移すとして、すぐにでもできる方法がある。アイドリング・ストップだ。まずは、ここからスタートしようではありませんか。

■むすび

私の夢は、すべての日本の自動車がゼロ・エミッション・ビークル(ZEV)になることだ。つまり、排出ガスがまったく出ない自動車である。

この夢を語るのはやさしい。しかし、この夢が実現されるには、まだまだ時間がかかる。

もうひとつの夢は、すべての日本の自動車から排出されるCO2を吸収できるだけの森林の造成だ。日本の国土は、現在にもまして緑豊かな国土になるだろう。そうなれば、私たち日本人の心もきっとなごみ、慈しまれるにちがいない。そして、世界に誇れると思うのだ。

この夢は、夢に終わらせたくない。100年かかるかもしれないが、実現不可能ではないからだ。

建築家ガウディの残したサグラダ・ファミリアは、彼の遺志を継いだ人たちによって、まだ建築が続いている。完成したサグラダ・ファミリアをもってではなく、建築中であることがサグラダ・ファミリアである、建築を続けるその行為がサグラダ・ファミリアだと、ガウディはいいたかったのではないだろうか。

緑化が、まさにそうだ。緑化に終わりはない。持続することをもって緑化という。これが、自然との共生であろう。

私たちは、人とクルマと自然の共生について、“こうすればできる”という定式のようなものを求めがちである。そして、定式化できれば、それでよしと考えがちである。

しかし、人とクルマと自然の共生には、終わりはない。これで“できました”ということはない。同様に、まだできていないということでもない。すでに共生をはじめているのである。ただ、現在の方法には欠点が多く、改良が必要なのだ。

今後も、また新たな自動車問題が発生しないとはいえない。地球温暖化の調査、研究の進度によって、新たな原因が発見されるかもしれない。人とクルマと自然の共生は、そのとき、そのときの状況に応じて、柔軟に、迅速に、持続して対応する必要がある。日々、是、共生である。

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4年6か月の長きにわたり、ご愛読いただきありがとうございました。
今回をもち、この連載は終了とさせていただきます。【編集部】




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