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第53回
夢から現実へ・その2 “私たちにできること”
文/舘内 端


■しっかり見よう

自動車は魅力的な交通機関だ。その魅力を失わずに、持続する自動車社会を構築するには、現在の自動車の問題をしっかり見つめる必要がある。

その一方で、持続させるのに価値のある自動車の魅力について、私たちはもっと知る必要があるだろう。それに価値があることを深く知れば、持続させようというモチベーションも強まる。

自動車社会には、さまざまな問題がある。そのほとんどが、自動車の普及による台数の増加と、走行距離の伸長によるものだ。

つまり、多くの人たちが自動車を保有し、たくさん使うようになったからである。問題がなければ、多くの人が自動車の楽しさと利便性を享受できることは、好ましいことではないだろうか。

自然とのかかわりでいえば、自動車の問題は、CO2排出量の増大による地球温暖化だ。また、資源問題でいえば、今後の石油需給の逼迫である。

この2つの問題は、緊密に関係している。自動車から排出されるCO2は、石油を燃焼させることで生じるからだ。

したがって、人と自然とクルマが共生するには、CO2を排出しない燃料を使い、しかもその燃料が枯渇することのない再生可能なものであることになる。

しかし、そうした持続可能な自動車社会の構築には、まだ時間がかかる。また、指をくわえて待っていればやって来るものでもない。私たちにできることを、できる範囲で、持続してやっていく必要があるだろう。

■市民・行政・市民の協調

持続可能な自動車社会の構築に向けて注目されているのが、水素を燃料とする燃料電池車である。あるいは、充電して走るEVも、発電のエネルギーが風力、太陽光などの再生可能なものであれば、これも持続可能である。

こうした次世代車の開発には、莫大な費用と時間がかかるため、企業だけではなく行政のリーダーシップが求められる。

しかし、それとても、国民の支持がなければやれない。私たちにも大事な役割がある。市民・行政・企業の3者が協調してはじめて、持続可能な自動車社会が構築できる。

そのためには、政府による持続可能な自動車社会のビジョンと実施綱領の策定が、まず求められる。それに対して広く議論をし、国民の合意を形成する必要があるだろう。その際に、企業には技術的な指針を出す役割がある。政府のビジョンと企業の技術指針と、それらに対する国民の合意があって、この長期的な計画がスタートできる。

だが、地球温暖化は進んでおり、一刻の猶予もない。持続可能な自動車社会の構築に向かうとしても、いま、なにもしなくともよいわけではない。持続可能な自動車社会の構築には、持続可能な日々の行動が求められる。それこそ、私たちにできる役割ではないだろうか。

■楽しい省エネ運転の創造

未来を語るのは、現実を見つめるよりも容易である。痛みを感じにくいからかもしれない。しかし、いざ現実に立ちかえると、持続可能な自動車社会の構築がいかにむずかしいか、気づかざるをえない。

その厳しい現実の前に、ややもすると自信を失い勇気をなくしてしまいがちだが、私たち市民にもできることがあることに気づき、それを行なうと自信をつけられる。

私たちが1人でも(持続的に)できることは、たくさんある。その1つが、省エネ運転だろう。同じ距離を自動車で走るにしても、少し気をつけるだけでガソリンや軽油の消費量を減らすことができ、CO2排出量を減少させられる。

しかし、省エネ運転というと、我慢、忍耐で辛いというイメージが強い。だからといって決してやらないわけではないが、持続力に欠け、モチベーションが低下しがちだ。

また、省エネ運転をしているというと、バツが悪いというか、その場で浮き勝ちである。仲間はずれにされるのもいやなものである。

楽しく、誇りを持って行なえる省エネ運転法がないものだろうか。といって、口を開けて待っていてもそんな運転法が空から降ってくるわけではない。ここは、創造力と遊び心を発揮して、豊かな省エネ運転法を創造するしかない。

その創造は今後の課題として、すでにわかっているいくつかの方法はある。これらに新たな知見を加え、さらに楽しくミックスすることで、きっと21世紀の省エネ運転法なるものが創造できるにちがいない。

次回は、そのベースになる考え方をご紹介しようと思うが、ここでは簡単な原則を提示しておこう。

まず、スピードが速いと消費するエネルギーも多いことだ。スピードは控えめにである。

次に、もっともエネルギーを消費するのは、一定の速度で走っているときではなく、加速しているときである。スピードを控えめにしても、そのスピードに至るのに急加速していては省エネ運転にならない。

さらに、加速のときに重いクルマはより多くのエネルギーを消費する。重いクルマ、たくさんの人を乗せたとき、荷物をたくさん載せたときは、いっそう急加速を避けることが大事だ。もちろん、その前に余計な荷物を載せて走らないことが大事だ。

また、クルマの種類によってもエネルギー消費率、燃費率は変わる。燃費のよいクルマを選びたい。

しかし、速く走りたいのも人情、加速を楽しみたいのも人情、たくさんの人といっしょにドライブするのも自動車の楽しさのひとつで、カッコウのよいクルマにはみな乗りたい。また、ご商売で荷物をたくさん積まなければならない人もいる。ということで、上記は必ずしも現実的な省エネ運転法とはいえない。では、楽しい省エネ運転法とは……。(次号へ続く)




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