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第51回
さらなる可能性が見えてきた……第8回EVフェスティバル
文/舘内 端


■夢から現実へ

初冬とはいえ、日差しの暖かな筑波サーキットで第8回の日本EVフェスティバルが開催された。今回は、このEVフェスティバルの様子をご報告しよう。

筑波サーキットには、東京から常磐高速道路を使って1時間ほどで着く。周囲を畑に囲まれ、遠くに筑波山を望む田園地帯のサーキットだ。

富士スピードウエイやスズカ・サーキットといった国際サーキットにくらべると、規模は1/2ほどと小さいが、実は(財)日本オートスポーツセンターという公益法人が運営する、世界にもまれに見る公益サーキットなのだ。

一方、日本EVフェスティバルを主催する日本EVクラブは、EV好きの市民団体である。未登録だが、いわゆるNPOだ。自動車の問題を自分の問題ととらえ、その解決に向けて自分のできることから行動するというクラブだから、少しばかりは公益のお役に立っているかもしれない。

公益に資する点では、日本EVクラブと(財)日本オートスポーツセンターは、似た者同士。というわけで、今回のフェスティバルは両者の共催ということになった。

公益に資する者同士がモータースポーツを開催するというのは、新しいモータースポーツへの取り組みではないだろうか。

■実際に即したEV作りへ

これまでの日本EVフェスティバルは、第7回を除いて(社)日本自動車研究所の高速周回路と旋回路で開催されてきた。

メイン・イベントのコンバート(市販車改造)EVは、5.5kmの高速周回路を1時間でどれだけ周回できるかで競われた。優勝するには13周から14周する必要があった。実際の走行では120〜140km/hで走らなければならない。手作りといってもかなりの実力をもったEVといってよい。

しかし、高速周回路では一定のスピードで走る性能は試されるが、実際の生活では自動車は、発進し、加速し、カーブを曲がり、止まる。また、これまでのEVの航続距離は、一定のスピードで走った場合の走行距離を指すものであった。これも実際的ではない。

EVフェスティバルに参加するEVは、市民がエンジン車を改造したもので、コンバートEVと呼ばれる。こうした手作りEVでモータースポーツを楽しもうと開催されたのが日本EVフェスティバルだが、95年の開催当初は、どのくらい走れるのか、まずは試そうということになった。当時のコンバートEVの性能からすれば、一定スピードで走る高速周回路での競技は、適切なものだった。

しかし、性能が高まるにつれ、もっと実際に促したEVの実力を試したいと思う人たちが増えていった。それと平行して、改造した手作りEVをナンバー申請して、町中で走り、実際の生活で使う人たちもあらわれたのだった。

■走り、曲がり、止まる

第8回の日本EVフェスティバルには、競技に出場したEVが46台、展示やデモランに出場したEVが20台で、すべて手作りだ。競技は、市販車を改造したEVによる1時間耐久レース(20台)、レーシングカートをEVに改造したERKの15周レース(17台)、軽自動車の5周スプリント・レース(8台)、そして、筑波サーキットで最速のEVを決定する筑波最速EV選手権である(12台)。重複して参加したEVもあるが、盛況であった。

それ以外に、カーメーカーから低公害車の出展や試乗車のご提供もいただいた(23台)。

ところで、世界のサーキットには、ヨーロッパ型の屈曲コースと、アメリカ型のオーバルコースの2種類がある。日本にもオーバルコースがあらわれたが、ほとんどはヨーロッパ型だ。

第6回までの日本EVフェスティバルは、アメリカ型のコースで競われたといってもよい。第8回の今回は、ヨーロッパ型のコースでの競技である。

2種類のサーキット(アメリカ型はレースウエイと呼ばれる)のちがいは、加速、減速、そして切り返しのあるカーブ(S字カーブ)の有無だ。ヨーロッパ型にはそれがある。

このちがいは、ヨーロッパとアメリカの大陸のちがい、道路のちがい、自動車の使われ方のちがいによるのではないだろうか。というのは、大きな大陸であるアメリカの道路は、たいていがまっすぐにドーンと伸びているが、ヨーロッパのそれは、山岳路に象徴されるようにクネクネと曲がっていることが多いからだ。

国土がちがえば道路もちがう。それらがちがえば自動車の使われ方もちがい、自動車の作られ方、性能の与えられ方もちがってくる。そうなれば、モータースポーツの形態もちがって当たり前だ。

アメリカ型のモータースポーツが直線的で、ヨーロッパのそれが曲線的というのも、当然といえば当然である。日本はというと、アメリカ型よりもヨーロッパ型に近く、かつ自動車の平均速度は低い。

そうした日本的状況に合ったEVということであれば、モータースポーツも高速周回路で競うよりも、サーキットで競うほうが、より現実的だ。

夢から現実へ。日本EVフェスティバルも、筑波サーキットで開催することで、より現実をめざしたものになった。

■速かった手作りEV

さて、結果はというと、これまでの努力がけっして無駄ではなく、参加者も主催者も、驚くほどの速さを見せたのだった。

市販車を改造したコンバートEVの1時間耐久レースでは、最速ラップが1分35秒で、平均速度に換算すると76km/hである。優勝したEVの周回数は26周であった。

15周で競われたERK(レーシングカート)の最速ラップは1分25秒で、平均速度は85km/hに達した。また、5周のスプリントで競われた軽トラックの最速ラップは、1分31秒で79km/hであった。

だが、筑波最速EV選手権に出場したEVは、さすがであった。いずれのタイムも上回ったのだ。コンバートEVクラスの最速は1分13秒、99km/h、ERKはなんと1分12秒で100km/h、さらに当日の朝2時に完成したフォーミュラーEVのX−01は、調整もなしで1分07秒、107km/hをマークしたのだった。

これらは、いずれも市販エンジン車に匹敵するか、それを上回るタイムである。いよいよ、EVが従来型のモータースポーツでその実力を発揮できそうである。

21世紀に入って、さまざまな次世代車が提案されている。夢は大きい。その夢を現実にするには、実際の生活の中で、きたえられることが大事なのではないだろうか。筑波サーキットという、厳しい条件の中で開催された今回の日本EVフェスティバルは、そんなことを考えさせられたイベントであった。

◎日本EVクラブのHP → http://www.jevc.gr.jp




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