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第44回
自然共生型モータースポーツとは?・その2
文/舘内 端


■森の自動車学校

森の自動車学校といっても、森の中で運転練習をするわけではない。森の中で、自然と自動車が共生する方法を学ぶ学校だ。そこに、どうモータースポーツの要素を組み込むか。

前回、述べたように遊びには、
 ・アゴン(競争)
 ・アレア(偶然)
 ・イリンクス(めまい)
 ・ミミクリ(模倣)  の4つの要素があると、カイヨワはいう。

この4つの要素が、森の自動車学校にあれば、モータースポーツにならないわけではない。というか、これまでの競争だけのモータースポーツよりも、多様で、新感覚で、楽しいモータースポーツになりそうだ。

■太陽を追いかける

たとえば、森の自動車学校で使用する自動車を、EVあるいは燃料電池車とする。まずは、この自動車の走行エネルギーを自前で調達する競争をしよう。それには、ソーラーパネルを使う。

各チームに同じソーラーパネルを供給するが、その組立と、設置はチームの裁量にまかせる。発電した電気が多いほどに、走行距離も伸びる。少なければ、負ける。ソーラーパネルは、太陽光発電器である。発電した電気で、直接EVを充電するか、水を電気分解して水素と酸素を作り、これを燃料電池車の燃料にする。

ここまでは、学校の理科の実験的要素であって、競争ではない。つまり、遊びやスポーツではない。そこで、手動式太陽追尾競争はどうだろうか。

ソーラーパネルで効率よく、たくさんの電気を発電するには、太陽に対して正しい位置にソーラーパネルをおく必要がある。しかも、太陽は時々刻々、東から西に向かって動く。高さも変わる。しっかり発電させるには、1分ごとに1秒ごとにとまではいわないが、太陽を追尾して、ソーラーパネルを動かす必要がある。

また、パネルの温度が上がり過ぎると発電効率が下がるので、水をかけたりして冷却する必要もある。大きなパネルであれば、体力も使うし、設置に工夫も必要になる。発電電力計の針をにらみながら、もっと上だ、もっと西に向けろと、楽しそうだ。

■風をつかむ

風の力でも、電気は起こせる。風力発電だ。これも手動式風追尾にすると競争ができる。

発電機、コントローラー、支柱、支柱を支えるワイヤー、プロペラ、配線類は、同じものをチームに提供する。組立、設置、配線はチームが行う。

風は、微妙にその表情を変える。風向、風力は、時々刻々、変化する。それを的確にとらえ、風車を調整しないと、たくさんの発電はでできない。そのためには、プロペラの風に向かう角度、ピッチを調整する必要がある。高性能な風力発電機には、自動ピッチ調整装置が取り付けられているが、それでは勉強にならないし、おもしろくもない。手動で行うのだ。

風の強さは、谷や尾根でも変わる。各チームが、ここだと思ったところに風力発電機を設置する。また、地面からの高さによっても風の強さは変わる。支柱を高くするほど、強い風を捕まえられるが、ワイヤーをしっかり張る必要があるし、ピッチ角の調整は困難になる。

森の学校では、その日の天候によって、風が強くなる時間帯が変わる。海の学校では、朝なぎ、夕なぎで風は弱まる。早朝に風が強まるとわかれば、徹夜で支柱を立てなければならない。

■木を植える

エンジン車で、森の自動車学校に入りたいという人もいるだろう。それでも、手はある。使う石油エネルギー相当の熱量を発生する木と、エンジンから排出されるCO2を吸収できる木に、それぞれ相当する植林をするというのはどうだろう。植林できた木の量に応じた距離を走れるのだ。

■移動する学校

さて、発電した電気で、EVを充電したり、燃料電池車の水素を作ったりして、それでどうモータースポーツを遊ぶか。

もちろん、走る。ソーラーパネルや風車で手に入れたエネルギーで、走れる距離を単に競うのもよい。それを基本にして、数日間で走行距離を競うのはどうだろうか。

その日に到達できた場所でキャンプをする。手に入れたエネルギーの一部を使って調理をする一方で、風があれば、さっそく支柱を立てて風力発電をはじめる。翌日のエネルギー入手計画やルートも考えなければならない。休んでいても、競争は続く。

たとえば、それほど走れなかったので偶然にも、風の強い谷間でキャンプができ、たっぷり発電して、翌日はトップに躍り出たり、まだ走れるのだが、日当たりの良い尾根に出たので思い切って停車し、ソーラーパネルを広げて充電をはじめたのが功を奏したりと、数日間あるいは1週間ほどの期間に競争が及ぶと、カイヨワのいう偶然性が加わり、スリリングな展開が期待できる。

その間に、植林を学んだり、森と生態系について学んだり、その成果が成績に反映するなど、工夫の余地はたくさんあり、それが多くあるほど、多様なゲームが可能になる。

自然の中を移動しつつ、学び、競うという、移動する自動車学校である。

自然と共生するモータースポーツは、むずかしいのではなく、たいへんに楽しい。私たちは、そのことに慣れていないだけではないだろうか。




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