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第40回
誕生! ニュー・モータースポーツ!!・その2
文/舘内 端


■森のロッジで自家発電

郊外に住む米国人の家には、たいてい大きなガレージがある。ここで、Do it yourselfとばかり、なんでも自分で作ったり、修理してしまう。さらに、自家発電までやってしまうのだ。

94年に電友1号というEVのフォーミュラーカーを持ちこみ、アリゾナのフェニックスで開催されたEVレースに参戦したときのことだった。フェニックスの郊外に住む米国の友人が、フォーミュラーカーの整備と充電のためにガレージを提供してくれたのだが、その広かったこと。レストア中だという大きなピックアップのトラックと、フルサイズのセダンが縦に入って、まだ余裕があった。

こんな大きなガレージがあれば、クルマだって作れると思った。だが、うらやむのはまだ早い。彼らは、森にロッジまで自力で建ててしまうというのだ。しかし、彼らとて電気は困ったであろう。なにしろ、そのロッジは麓の村から数10キロも奥まったところにあったりするのだから。

ところが、彼らは電気も自分で起こしてしまうという。月刊『自家発電』なる雑誌をもって訪ねてくれた友人から聞いた話である。

森にロッジを建てる。彼らの実力をもってすれば、そこまではなんとかなる。しかし、麓から数10キロも離れた森のロッジまで電線を引くと、数億円からの費用だというのだ。そこで、風車や水車やソーラーパネルやらを使って、自家発電をするというのだが、そのための小型の発電機が発売されている。さらに、月刊『自家発電』には、毎月のように自家発電設置奮闘記が掲載され、自慢しあっているのだという。

よく売れているという小型の風力発電機を入手して、つくば市郊外の屋根の上に設置してみたが、たまたま冬の風の強い日であったこともあって、600ワットという定格出力は満足する出来であった。

森にロッジを建てて、発電機を設置し、発電量を競うというのも、新しいスポーツかもしれない。

■自動車でも発電できる

EVやハイブリッド車には、回生ブレーキが付いている。クルマの走るエネルギーで発電して減速させる装置で、一種の発電機だ。

EVの場合は、クルマを走らせるモーターがそのまま発電機に切り替わる。発電をはじめると、その電気量に応じてクルマは減速する。自転車の発電機を回すとペダルが重くなる原理だ。ふつうは、このように回生ブレーキは解説される。では、EVを押したり、引いたりしたら発電できないのだろうか。じつは可能なのだ。

“2001年充電の旅”(くわしくは、第36回を参照)で、2人のドライバーが喜び、はしゃいだことは多々あったが、下り坂もそうだった。下り坂では、坂を下るエネルギーで発電し、バッテリーに充電できるので、再び元気よく走れるからだ。そこで、坂を下る替わりに、EVを押したら充電できるのではないのだろうかと、2人は考えた。

原理的には可能だが、どの程度、押したり引いたりすれば充電できるのか。はたして1人や2人で押しても充電できるのか。いったい何メートル押せば十分な発電ができるのか。ことは体力の問題だ。計算だけでは、わからない。ということで、ではさっそくと青森は大間の港の人たちに手伝ってもらって、旅の途中でEV引き回し発電実験をやってみた。

船着き場の広場でEVを押したり、引いたりした。その結果、ゼイゼイ、ハアハア、大変に体力を使うことと、それでも充電は可能だとわかった。

■EV引き回し充電競争

だったらゲームにしようと、さっそく日本EVフェスティバルにEV充電競争を取り入れた。

11月18日。日本EVフェスティバルの行われた神奈川県大磯町は、秋が深いにもかかわらず、半袖でも十分なほど暖かかった。

フェスティバルも終盤を迎え、いよいよ東西対抗戦の決着がつく頃だった。海の見える大きな駐車場にEVが引き出された。充電の旅をしたEV・Aクラスである。これを使って、充電競争をやろうという趣向だった。

東組、西組、それぞれ屈強の20人がEVを押したり、引いたりするために選ばれた。みな、汗をかくことがわかっているのか、半袖である。

ルールは簡単だ。広い駐車場の中を5分間、自由に押して、引いて、発電し、その電気量の多かった組みが勝ちである。引き回すために、太いロープが4本、主催者によって用意された。ただし、時速2.3キロ以上にならないと発電されない。せめて歩くスピードで引き回さないとダメだ。

西組からゲームがはじまった。15人が引き、5人が押した。最初は元気よく、掛け声もかかっていたのだが、3分も過ぎるころになると、もうバテ気味である。中には脱落して歩くメンバーも出てきた。リーダーが声をからして叫べと応えず、隊列はヨタヨタになってきた。審判から“あと1分”と声がかかるが、スピードはますます落ちる。

笛の合図で引き回し充電を終えると、メンバー全員がその場でへたりこんでしまった。見ると、全員、顔中から汗が噴き出ていた。EV引き回し充電競争は、立派な(?)スポーツであった。

後攻は東組だ。西組の様子を見て取って、リーダーは作戦を立てた。交替で引いたり、押したりしようということなった。5人ずつ30秒交替で引いたり、押したりする。交替の間に疲れも取れ、体力も回復する。これなら、常時、元気よく引き回し充電ができるはずである。

と、ここまではよかったのだが、リーダーの掛け声もむなしく、西組同様、脱落、へたりこみが出て、5分後には全員、“もう、やらない”とわめいてのびてしまった。というのも、次回の日本EVフェスティバルでは、筑波サーキットの2.2キロのコースで充電競争をやろうという声があるからだ。

さて、充電競争の結果はというと、西組が0.30Ah(アンペア・アワー)、東組が 0.27Ahで、西組の勝ちとなった。

ところでEV・Aクラスが1km走るには、0.4Ahの電気を使う。20人が汗だくで5分間、引き回してようやく勝った西組といえども、充電量が0.30Ahでは、それで走れる距離はたったの750メートルに過ぎない。発電とは、かくもエネルギー(体力)の必要なことなのだ。

場内アナウンスでそのことが放送されると、汗だくの顔が“納得”していた。海からの爽やかな風が、40人の疲れをいやしたようだった。

これも、ニュー・モーター・スポーツではないだろうか。




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