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第6回
いよいよ車検。もちろんここにも奥義あり。
文/舘内 端



手作りEV教室の今回は、いよいよナンバーを取得するための車検手続きのお話だ。このHPをご覧の方だけに、車検合格の秘訣をお教えしよう。

ナンバーを取得すれば、公道を走れる。友人の家に、手作りEVに乗って自慢に出かけられるというわけだが、車検の前に、ちゃんと走るかどうか、テストしておきたい。テスト走行から車検合格までのお話である。

1. 車検手続き

ガソリン車あるいはディーゼル車から、電気自動車へのコンバートは、日本ではいわゆる“改造車”と呼ばれる。改造自動車で公道を走るには、“改造車車検”を受けて、ナンバーを取得しなければならない(ただし、車検が切れていない状態で改造した場合は、ナンバー[番号]はそのままとなり、車検証に改造車と記載される)。

改造車車検を受けるには、まず地元の陸運局に“改造申請”を提出し、それが受理されなければならない。公道を走るのに安全な改造であることが認められると、ようやく車検を受けることができる。

車検は、車検場で受けることになるが、あらかじめ予約しておく必要がある。約束の日に車検場に出かけて、改造内容が“改造申請書”通りかどうかチェックしてもらう。

実は、これが車検ということであって、申請書通りの改造内容であれば、あっさりと車検には合格する。ナンバー取得の実際は、むしろ“改造申請”を受理してもらうことなのだ。

2. 改造申請

[動力系]
本来の手続きは、実際のコンバートの前に陸運局で相談し、改造申請が受理されてから改造にとりかかるのが順番である。

実際に、そうした方がナンバーの取得はスムーズである。というのは、むやみに改造してしまうと、道路運送車両法の中の保安基準に抵触する場合もある。そうなると、安全であることの証明に、大変な費用と時間がかかるからだ。改造申請段階で陸運局とよく相談すれば、そうした事態はまぬがれる。

改造申請で主に審査されることは、車体の強度と走行性能(走り、曲がり、止まる能力)である。ただし、EVへの改造であれば、排出ガスはゼロなので、審査もなければ、車検のときもスムーズとなる。

3. 車検まで

ナンバー取得までの手続きを整理すると、
1)改造計画を立てる → 2)改造申請をする
3)陸運局と相談する → 4)改造申請を受理してもらう
5)改造にとりかかる → 6)車検の予約をする
7)車検を受ける という順番となる。

つけ加えると、かつては、EVへのコンバートといった大幅な改造に限らず、たとえばサスペンションのスプリングやショックアブソーバーの交換、エアロ・パーツの取り付けなどには、厳しい制限が付けられていた。しかし、規制緩和の動きにのって、この制限も緩和されている。規制緩和以前であれば、コンバートEVのナンバー取得は、極めて難しかったであろう。

4. 車検合格の秘訣

陸運局の担当者によく相談するのが、いちばんの秘訣だ。その上で、いくつかの秘訣をお教えすると、
●モーターの出力、トルクはベース車両のそれを上回らないようにする。
●総車両重量が、ベース車両に許されている重量を上回らないようにする。
●車体強度に関係する部材を削除したり、溶接したり、穴を開けないようにする。
●シートベルトの取り付け箇所を変更しないこと。

また、あまりにもモーター出力が小さいと、坂を上る力が不足してしまう。これは登坂能力として規定されている能力が不足していると見なされるので、審査に不合格となる。 登坂能力は、モーターの出力・トルクとギヤ比、車重で決まるので、1充電当たりの航続距離を伸ばそうと、たくさんのバッテリーを載せると、こうした問題が発生する。さらに、バッテリーの載せ過ぎは、総車両重量にも関係する。

ということで、改造申請をスムーズに運ぶ秘訣は、ベース車両を大幅に改造しないこと、モーターの大きさやバッテリーの個数を適正に設計することとなる。

さらに、もっと具体的な車検合格ノウ・ハウは、すでに改造して車検に合格しているコンバート車のやり方とそっくりさんを作ることだ。モーター、コントローラー、バッテリーの選択、その取り付け方、配線などをそっくりさんにすれば、改造申請も車検も合格間違いない。ただし、それではつまらないということもいえる。

では、どうすればよいか。答えは簡単である。日本EVクラブへのご入会をお勧めする。

日本EVクラブでは、ベース車両の選び方から、改造申請の仕方や書類の書き方まで、コンバート愛好家の支援をしている。ただし、モーターに関してはAさんが、バッテリーはBさんがよく知っているので、新入会員のCさんは、それぞれの会員から教えてもらうというシステムであり、コンバートに成功したら、今度はCさんが次の新入会員に秘訣を伝授するということになる。つまり、顔の見える、助け合いのクラブということだ。

というのは、顔の見える社会、コミニュケーションを大切する社会、互助の精神に満ちた社会が、これからのモータリゼーションを支えられると思うからである。そうした柔らかな社会から、クルマと人と自然が共生する知恵が生まれるのではないだろうか。

5. テスト走行

これは難問だ。ナンバーの付いていないクルマ、改造車検に合格していないクルマの公道走行は禁止されているからだ。クルマ社会は、自分の安全だけではなく、いやその前に他人の安全を守ってはじめて成立するのだから、当たり前のことだ。また、駐車場は道路ではないからといって、そこで走ることも禁止されているので注意したい。駐車場も、公共の場なのだ。

走るか走らないか、どう判定すればよいか。サーキットやきちんとしたテスト・コースでのテストということになる。これには大変に費用がかかる。

ということで、おすすめのひとつは、車検場の近くに予備車検を請け負ってくれる業者の工場があるので、それを利用しよう。ライトの光軸、ブレーキ能力、スピード・メーターの狂い、排出ガス(おっとEVには関係なかった)などを事前に調べることができる。

もうひとつは、“会員力”を借りることである。コンバートの経験のある会員に相談すれば、たいていのトラブルには対処できる。

さて、ナンバーを取得したら、自分で作ったEVで走ってみたい。どうすれば、安全にトラブル・フリーでドライブできるか。あるいはトラブルに対処するにはどうすればよいか。また、どんな楽しいドライブが可能なのか。次回は、手作りEVの開く楽しい未来ドライブについてお話しよう。



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96年に仲間と手がけた“手作りEVランサー”が車検を受けた際の行程をご紹介しよう。
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photo ローダーで車検場に運びこんだ手作りEVランサー、いよいよ車検である。
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これは、スピードメーターとブレーキのテストのシーン。
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photo 上の写真にあるように、車体を回転するローラーに載せてテストを行う。
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ボンネットを開けて、なにやら真剣にチェックされているのは……
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photo [改造申請書]どおりに工作されているかどうかが確認される。
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光軸の検査は、エンジン車とまったく同じだ。
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photo ただし、排出ガスの検査はしたくともできず、必要もない。
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車体の下から、サスペンションやブレーキ配管のほかに、配線の安全性もチェックされる。
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photo 車検の時間は5分もかからない。最後に、エンジンにも付いているナンバーをモーターにも刻印してもらって終了である
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ここまでの苦労が多ければ多いほど、感動も大きい。拍手!