title

第1回
2つのモーターで始まる、パジェロ ミニの第二の4WD人生
文/舘内 端



エンジンを取り外して替わりにモーターを乗せ、ガソリンタンクがあった場所や、元のエンジンルームあるいはトランクの一部にバッテリーを乗せると、EV(電気自動車)の出来上がりである。

EVがそんなに簡単にできるわけがないのだが、細かな作業を除くと、基本的にはこれ以外にやることはない。アメリカには、ベース車両に合わせたキットや製作マニュアル本にビデオまで用意されている。あとは根性だけである。日本では、EVクラブが製作の相談にのるが、基本的には個人がベース車両を選び、モーターを購入し、細かな部品を揃えて……という自助努力が要請される。

これから始まる連載では、三菱自動車(株)の協力の元に日本EVクラブ主催による第三期EV手作り教室で製作されたパジェロ ミニEVを使って、手作りEV製作の概略をご紹介しよう。ただし、これだけで誰でも作れるわけではない。また、高性能なEVが作れるわけではないことも、あらかじめお断りしておこう。市販の鉛電池を使った場合、1充電で走れる距離は市街地で60キロほどだ。フル充電には8時間ほどかかる。トップスピードは、作り方にもよるが時速140キロほどである。

“それでも”とおっしゃる方が実は多いのだが、その理由をたずねると、やはり“環境に優しいから”という答えが返ってくる。航続距離については、“使えるように使っています”とのことだ。60キロも走れば、通勤にも買い物にも不自由はしない。そして、これは完成してから感じることなのだが、たとえばそれまで無関心だったゴミの分別などにも急に関心がわく。手作りEV効果のひとつだ。

パジェロ ミニEV製作の第一歩は、どんなEVにするか、どこで使うかといったコンセプトの検討だった。EVというと、ゴルフ用のカートや小さなシティ・コミュターはよく見かける。イギリスには現在でも牛乳配達用にEVカートが使われている。私たちは、山や川や森とコミニュケートできるネイチャー・コミューターにしようということになった。パジェロ ミニが4WDであることを大いに利用できる。

次は、車体を下からのぞいたり、エンジンルームを開けたり、室内をのぞいたりして、エンジン、ミッション、4WDの場合は駆動力を前後に配分するトランスファー、ガソリンタンク、マフラーなどの配置を調べ、寸法を取る。一方で、車重を見積もり、それをデーターにして、必要な性能を計算する。登坂力、最高速度、加速度、航続距離等だ。

ここまでくれば、モーターの性能、大きさ、バッテリーの容量、個数、コントローラー等について、おおよその見当がつく。カタログから適切なパーツを選んで、寸法をチェックする。カタログや解説書を参考にして、パジェロ ミニの5分の1の図面を引く。そこに、調べた車体の寸法を書き込み、選んだパーツを図面上に書き込んでみる。うまく収まればOKであるが、だめなら車体の改造あるいはパーツの変更を検討する。

その結果、パジェロ ミニには、フロント用、リア用の2つのモーターを取り付けることが可能で、バッテリーは元のエンジンルームと、車体中央下部および車体下部後車軸後方に3つのケースに分けて、計12モジュール搭載することが可能と判明した。また、モーターを制御するコントローラーは、元のエンジンルーム上方にブレーカー、コンタクター、ヒューズといった電気部品といっしょに搭載することにした。

モーターは、アメリカのアドバンスドDC社のL91−4003型を2個、車体下部に縦に並べ、新たに角パイプを使ったマウントを設計してそこに搭載することにした。バッテリーは、パナソニックEVエナジー(株)のご協力をいただき、EV−95型ニッケル水素電池(12ボルト、95Ah)とした。これを3パックに分けて搭載できるようバッテリーケースを設計した。コントローラーは、アーバンサイエンティフィック社のPC600−144型とし、最高出力を40馬力とした。

しっかりとEVを作るには、実はエンジンを降ろす前に、最低限ここまで設計を終えておく必要がある。初めての人には無理なので、エンジンその他不要なパーツを降ろした車体の横に、購入したパーツを並べて、眺めながら検討するのも良いだろう。ベース車両のパジェロ ミニは中古車であった。もちろんEVを作るには十分なのだが、一応、エンジンを降ろす前に、修理が必要な箇所はないか、車検の要領で前から横から、上から下からしっかりチェックした。

エンジンを降ろすには、あらかじめ必要な工具を揃えて置くことだ。エンジンを車体の上部に抜く場合にはチェーンブロックが、下部に抜く場合には車体を持ち上げるリフトがあると便利なのだが、いざとなれば友人を集めて、人力で降ろそう。また、中古車であるとラジエターフォースが固くなってはずれにくかったり、ボルト、ナットがゆるみにくく苦労するかもしれない。ケガをしやすいので、そんなときは無理せず、ゆっくりネジの気持ちになって回すことだ。また、ガソリン、オイル、冷却水はあらかじめ抜いておこう。

エンジンが降ろせると、ホッとするものだ。一服して、次はミッション(エンジンと一体で降ろす場合もある)、排気管、ガソリンタンク、マフラー、ラジエターなど、あらかじめチェックしておいたパーツを降ろす。リフトで車体を持ち上げておくと楽なのだが、それが出来なければ、ガレージジャッキで前、後ろと順に持ち上げ、“ウマ”と呼ばれる台か、それがなければブロック等で車体を持ち上げておく。しばらくは、このままの状態で作業をすることになる。さて、次回はモーターマウント、バッテリーケースの設計と製作について解説しよう。ここでは、溶接作業やリベット打ち作業も必要になる。



photo
photo
エンジンを降ろす前に、まずは、
パジェロミニの各部をチェック。


photo
EVに不要な部品をはずす作業、
まず最初にマフラーを。


photo
トランスファー(駆動力配分装置)
の取りはずしに着手。


photo
はずしたミッションに残った
オイルも抜いておく。


photo
いよいよエンジンにさよなら。
車体上部からエンジンを抜き出す。


photo
ケースに組み込まれたコントローラー。
この謎の赤い箱については次回で詳報。


photo
モーターマウントを溶接しているところ。

photo
モーターマウントに、モーターを
マウントする作業。


photo
前輪用、後輪用、2つのモーターで始まる、
パジェロミニの新たな4輪駆動人生。