Following the Pass of Polar Bears.


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車のエンジンの音が聞こえた気がする。窮地に追いこまれると幻覚を生むというが、そのとき、考えられないことが起こった。
この時間に、なぜか車のライトがこちらに向かってくる。まだ夜空を少しだけ明るくしているだけだが、ここはブライアンの土地であるから、許可なしに誰かが入ってくることは考えられない。いつもなら、ブライアンは、“お前、何者だ。誰の許可をもらって入ってきた。ここは個人の土地だぞ”と、遠くまでよく響く声で叫ぶところだ。
今はちがう。運転手には、まだ我々が目に入るはずもないが、“気が変わらないでくれ。こっちにまっすぐ来るんだ”、そのときばかりは、車のライトの光がとてつもなく明るく、それは熱々のラーメンを前にしたがごとく、気持ちを暖かくさせてくれるのだった。ブライアンは“Good boy! Good boy! ”と、まるで犬たちに語りかけるときと同じ言葉を叫んでいる。
まだ小高い場所を車は走っているので、低いところにいる我々のトラックは、彼らには発見できない。若い白人のカップルが、夜のドライブがてらに、白クマを見にきたのだろう。すぐに車のライトが我々を照らした。我々以上に驚いたのは、運転してきたカップルだろう。まっ暗闇のなかでも、町の人なら誰でも知っているブライアンの緑のトラック、そして懐中電灯など灯かりもなく、ただ手を振って、こっちに来いと手招きしている我々2人が、車の灯かりに浮かび上がっている。やっと気がついたドライバーは、入り口の門で一度は停まったが、ゆっくりと我々へ向かって車を近づけてきた。
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