Following the Pass of Polar Bears.


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エンジンが動かなくなったトラックから、肉をなるべく遠くに捨てるのだ。トラックのところに行けば肉が食べられる、などということを白クマにおぼえさせたら、白クマは、どのトラックをも襲うことになるだろう。こちこちに凍りついた肉4ブロック(1ブロックが約25キロ)のかたまりを、飢えた8頭の白クマ見ている前で捨てるのは、いうまでもなく大変危険なことだ。
昼間、肉のかたまりを餌として犬に与えるときも、白クマは、チャンスがあれば横取りしようと近よってくる。その危険を避けるために、私たちの間では“約束”がある。それはクマが我々を見たときには、“ブラーイアーン”とゆっくり叫ぶ。白クマがこちらに向かって動き出したときは、“ブラーイアーン、クマがー、うごーいーてーるぞー”とこれもゆっくり叫ぶ。しかし、30メートル以内に近づくか、足早にこちらに向かって動き出したときは、“ブライアン!”と鋭くどなる。
素早く銃をブライアンに渡すか、2人とも車の中へ逃げこむ。もちろん、吹きっさらしのなかで写真を撮っているとき、レンズの視野には入らない白クマの動きは、ブライアンが監視してくれる。そのときも同じだ、“HI...SA...”、“HI...SA...、うごーいーてーるぞー”、そして“HISA!”とどなる。しかし、今の暗さでは、白クマは、簡単には見えない。
クマから自分たちを守るため、身近に3匹の犬が必要になる。トラックの位置から、鎖で繋がれている犬の場所までは100メートルあるかないかだが、そこまで何キロもあるように感じる。陽も落ち、薄闇に白く沈んでいくツンドラのなか、白い白クマの動きを監視するのは容易なことではない。
それより問題なのは、暗くて視野に入ってこない白クマの存在だ。所在のハッキリしないだけ、より大きな恐怖を感じる。8頭が9頭に……あるいはそれ以上かも知れないと、考えなくてもいいことまで考えてしまう。うろついている白クマの中には、500キロくらいの巨大なのもいるにちがいない。あらぬ方向へおびえが広がる。
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