Following the Pass of Polar Bears.


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故障の原因がわかっても、こんな所に、公衆電話があるはずもない。たった一軒、人が住んでいる家があるがまだ遠い。近くの小川は、底まで凍りついているため、水を汲むことはできない。後は、車が通りかかるのを祈るだけだ。この寒さに耐えられる間に来るかどうか。ブライアンは、“HISA、心配顔しているぞ”と笑いかける。
笑いごとではない。日本にいて、ラジエターの水がなくなることなど聞いたこともない。仮になくなっても、近くのガソリンスタンドへ行くか、電話でJAFを呼べばいい。ラジエターの水が原因で凍え死んだら、洒落にもならないし、家族になんと言い訳すればいいのだ。町からは遠く離れたここは、ほんとうに何もないからっぽの世界だ。
“HISA、俺のコーヒーの入っている魔法瓶も取ってくれ”といって、ブライアンは2本分のコーヒーをラジエターにそそぎこんでしまった。“Action!(出発!)”と、いつもの元気なブライアンのかけ声だ。“ラジエターには、ブラック・コーヒー”。おっ! やった! 何か聞いたことがある宣伝文句のような気もしてくる。“水があれば、そのほうがいいけど。ペプシ・ライトでも大丈夫だよ”と、ブライアンは極北の大自然に生きる達人の知恵を教えてくれる。
たび重なる長い極北での生活では、何が常識か、常識でないのかがわからなくなる。ともかく、宿のAnneが入れてくれたブラック・コーヒーのおかげで、無事に町へ帰れた。これも達人にとっては、常識なのだろう。まだまだ極北の達人からは、学ぶことだらけだ。
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