Following the Pass of Polar Bears.


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“まず、犬をソリまで連れてきてくれ! 最初はリーダー犬を、次にその隣の白い犬だ”と、楽しそうに言う。ブライアンの楽しそうな笑顔が、いつもくせ者だ。何かを企んでいるときの笑いだ。
リーダー犬は、黒く、眼光は野生そのもので、見ためには恐怖も感じる。それでも引っ張り回されながらも、何とかソリのあるところまで、この犬を引いて来る。“よーし、HISA! できるじゃないか”。いい気分になったが、最初の犬をうまく引いてきたのが、そもそもまちがいであった。止めればいいのに、たやすいこととばかりに、もう1頭の犬を連れてくることにした。
犬に近づくと、他の犬たちも、かまってもらいたい一心に、彼ら特有のコーラスをはじめる。オオカミが月に向かって遠吠えをするように、それはまさに野生の血が呼んでいるのだろう。1匹が“ウォー”とやや悲しげに聞こえる声で吠えると、残りのすべてが同じように合唱をはじめる。そのなかの1匹を鎖からはなしてロープで連れてこようとすると、一度合唱が終わっても、次から次へと“ウォー”がまたはじまってしまう。
距離は50メートルぐらいだったが、白いオス犬は興奮してるのか、ものすごい力で引く。すでに、ソリを引いているつもりなのかもしれない。まるで、水道の強い水圧で抑えが効かなくなり、左右にものすごい勢いで暴れるホースのように、振り回されてしまった。しまいには、力いっぱい犬を引いている腕が、ブルブルと震えだす。気温が氷点下だというのに、汗が出る騒ぎである。これならブリザードのなかを歩くほうが、はるかに楽だ。
ブライアンはゲラゲラ笑って、助けにも来てくれない。手こずりながらハーネスに犬をつないでも、元気者の犬たちが暴走したらどうするのだろう。これはペットではない、ソリ引き犬なのだ。犬は、1頭ごとに鎖につないであり、たがいにケンカできない距離に置いてある。しかし、犬同士を近づけると、大乱闘がよく起こる。犬たちは楽しんでいるのか、闘っているのかさっぱりわからない。こうなると大きな靴で、けっ飛ばさないかぎり収まることはない。しかし不思議なことに人間に対しては極めて友好的で、噛まれたこともないし、犬たちは、むしろ触ってもらいたくいつも大騒ぎをする。
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