Following the Pass of Polar Bears.


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1999年4月4日、もうすぐ春だ。現地よりの報告

日ごとに10〜15分ぐらいずつ日が長くなり、まもなくチャチルにも、香しい春がやってこようとしている。温度こそ氷点下15℃以下だが、まっ白な北極ウサギも、雪の下で春を待っている草を探しだし食べている。11月末には午後3時に夕焼けが見えたが、今は9時にならないと日は沈まない。
この時期、冬眠をしない白クマは、沖合はるか彼方までアザラシを獲るために行ってしまった。今はもう白クマの危険はない。秋には、どこにでも見られた“歩くな!クマに注意!”の看板はすべて取り払われて、見あたらない。シロクジラ(ベルーガ)が現れたり、花が咲く夏まで、観光客もほとんど来ることもない。
一歩町を出れば、ツンドラが続いているだけで、あいかわらず空っぽである。町の中も、車も人もほとんど見かけず、時々、Ski-Do(スノーモビル)や屋根のないATV(All Terrain Vehicle:3輪か4輪のバギー車)が走っているだけだ。秋には6、7軒も開いていたレストランも今は2軒だけである。おまけにお客はほとんどなく、ここも空っぽだ。仕事もないし、何もかも空っぽだが、むしろ伝統的な生き方が、ここそこに見える。歩く足下も、秋に来たときには、気がつかなかった異質な自然界が見える。

朝、ブライアンが宿に迎えに来てくれたとき、大きな4枚のカリブー(トナカイともいう)の毛皮と犬ゾリ用ハーネスがトラックに積んであった。“やったー。犬ゾリの練習だ”。 以前から乗りたいと思っていた。昨日、夕日を見ながら“明日は、きっと上天気になるぞー”と、いつになくブライアンが言っていたのを思い出す。天気予報に関しては、測候所の予報は、予報官が気の毒になるほど当たらない。明日は晴れと予報があれば、いい写真が撮れるぞと自分に都合の良い希望がもてるだけで、天気予報は気休めだ。しかしブライアンの予報は、いまだかつて、はずれたためしがない。天気を予想できることも、過酷な気象条件の極北の地に生きる人の条件なのかもしれない。
“HISA! 今日は9頭か11頭の犬で練習だ!”とブライアンがニタニタしながら言う。日頃からカナディアン・エスキモー犬の引っ張る力のすごさを知っているので、“だめー! 5頭で十分じゃない?”と言うが、ブライアンは聞いてくれない。その力強さを利用して、カナダでは、最近1頭のエスキモー犬で、スキーに乗った人を引っ張らせることが、最もナウいスポーツになっている。それも大変な力で犬が引くので、ものすごいスピードだそうだ。結局、9頭ということになってしまった。5頭と強く言えばよかったと、後悔することになる。
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