Following the Pass of Polar Bears.


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“こんばんは、私は東京から来たHISA(久)です”と、カナダの地ビール“OV”を飲みながら自己紹介をする。このテーブルを前にしては、私はだだ1人の旅人でしかない。肩書も名刺も、この氷原の烈風に吹き飛ばされた。小気味よいほどに。
私の写真の技術も自然に関する知識も、はたしてどれだけ通用するのか。日本語の通じないこの場所では、そんな思いがよけいに強くなる。日本との時差は15時間。1日遅れの日を過ごしている。このずれは最後までしっくりこなかった。
“ほう、だいぶ遠くから来たんだね。それで、こんなところまで何をしに?”
“白クマの写真を撮りに来たのです。何でもいいから教えて下さい”
“HISA、俺、チャチルに白クマの写真撮りに5年来ているけど、おまえプロのカメラマンかい?”
“プロというわけでは……”。くやしいけど“趣味です”と答える。
“ここの寒さはどれくらい?”
“10月の末になれば、マイナス25℃にはなる。最低気温はマイナス46℃だ。風が吹いたら、肌を出すな。凍っちまうぞ”。
あなた誰? ここで何しているの? どこから来ましたか? 私の知識はこれだけです。他にレストランある? 明日の天気は? 日本人来ますか?……。
“日本のカメラマンは、ミッチェル(星野道夫)以外来ないねー。いい写真撮れると、いいね”
自分が持ち合わせているのは、笑顔だけ。笑顔で話せば、とって食われることはないだろう。笑顔だ、笑顔だ。これしかない。どこかに、この大自然の達人(先生)がいるはずだ。
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