Prologue A Rosarian's Diary

サマースノーとの出会い

4年ほど前、中目黒の小さな花屋でサマースノーという名のつるバラにひとめぼれをしました。ひらひらと八重になった純白(ほんとに純白)の花がたわわに咲く姿がすごく可憐で、ひきこまれるように見入ってしまった。

“え? バラってこんなんだっけ?”。店先で思わず連れにそうたずねたことを、よくおぼえています。

それまで、バラを好きだと感じたことはただのいちどもありません。バラといえばまんなかがツンと高く尖ったバラ、いかにも花の女王然と咲き誇る大輪のバラを、きれいだとは思っても心を動かされることなんてなかった。自分とはなんの共通項もない、シンパシーを感じない花、というのが私のバラの印象でした。

それがいわゆるハイブリッドティローズといわれる種類で、野生のバラに人間が改良を重ねたすえに行き着いた、最新の“人工デザイン”であることを知ったのは恥ずかしながら最近のこと。そして、19世紀半ばに初めて四季咲きのバラが人間の手でつくられる、それ以前のオールドローズというものが、私の固定観念の中にあったバラとは似て、まったく非なるものであることも。

そういえばノバラなら昔から大好き。ただ、私を魅了したサマースノーも、そののち調べてみるとじつは20世紀生まれのモダンローズです。けれども、平咲きでまるっこい花型の柔らかさはかぎりなくオールドローズを模していて、それが、ぽんぽん、ぽんぽんと咲くようすは、見とれてしまうほど愛らしいのでした。


めざめたロザリアン

ちかごろではバラ愛好家のことをロザリアンと呼ぶそうです。ひとめぼれして手に入れておきながら、水やりと、申しわけ程度の化学肥料をあげるだけで4年間をやりすごしていた私は、ロザリアンの風上にも置けないナマケモノでした。“育てやすい”といわれるサマースノーもさすがに年ごとに花つきが悪くなり、きれいに仕立てられていた枝ぶりも、ニョキニョキ好き勝手にのび放題……。

そんな私がバラいじりに本格的にめざめたのは、この春、都心のマンションから井の頭公園近くの緑豊かな場所に越したのがきっかけです。ここの空気は、とても自然にひとを土や緑に向かわせるみたい。一畳半ほどのベランダガーデンの主役にサマースノーをしつらえ、ちょっといじってみたらグングン、トレリスにからませてあげたらさらにグングン、季節も手伝って目を見はるほど枝葉がのびるのです。それはまるで、4年間ためていたうっぷんをいっきにはらすかのような勢いで。

“育てる愉しみ”を知ってしまったということでしょうか。人間、手のかかるものほど愛しやすい。世話の焼けるバラにたくさんのひとが“はまる”理由が、少しずつわかりはじめました。

というわけで、遅ればせながらロザリアン1年生になった私。サマースノーの元気を回復させ、来年こそは買ったときのようにぽんぽんと花を咲かせてあげたい。そして、憧れのオールドローズやワイルドローズにも挑戦してみたい……。これは、そんな私のバラ日記です。本質的にO型、オオザッパーな私をバラがどこまで許してくれるのか。どうか、見守っていてください。さては、いよいよバラの大苗が出まわるこの時期。まずははりきって、東京で唯一のバラ園である[駒場バラ園]に出かけてみました。
rose illust 八重のひらひらの花びらが平咲きになったグリーンスリーヴス。私のサマースノーもこんな感じです。平咲きの反対は、真ん中が尖っている“高芯咲き”。私は密かに“鼻ぺちゃ咲き”と“鼻高咲き”と呼んでいます。



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