A Rosarian's Diary
8月27日〜9月10日 旅先の雑記帳より〜ポルトガル滞在

ポルトガルは、首都リスボンを境に北と南の土地のなりたちが見事にちがう国。当然、人間もちがう。山が多く、起伏の激しい北部のひとはあまり笑わないように思えるし、一転してなだらかな平野が続く南部のひとは、にこやかで、ひとなつこい感じがする。といっても、ポルトガルのひとは概してクールで、必要以上に他人に近づいてこない。その距離感が心地いいときもあり、淋しいときもあり。

ポルトガルは、わたしの好きなフォークロアな絵葉書の宝庫。アーモンドの花の絵葉書をよく目にするが、1年中温暖な南部はアーモンドの産地でもあるそうだ。かつて、この土地を支配していたムーア人の王子さまが、北欧の王女さまと結婚。雪を恋しがって泣く王女さまのために、雪のようにまっ白な花が咲くアーモンドの木を一面に植えたというのがそのはじまりのお話。実がなっている木は目にしたけれど、花が咲くのは1月ごろだとか。今度くるとしたら、雪景色のようにアーモンドの花が咲くその季節がいいな。

来る前に迷った『プラテーロとわたし』を、やはり持ってくればよかったとすごく後悔。ここで読むのに、あれほど似合う本はなかっただろう。江國 香織さんが“世のなかの、善いもの、美しいものがすべて書きつけられている”と言った本。ロバが主役の詩集なんて、ここ(スペイン国境のモンサラーシュという小さな小さな村)で読む以外にどこで読むのだ。30分ごと律儀に鳴る教会の鐘、あちこちにイチジクの木、毎日同じ場所にぼんやり座っているおじいさん、黒衣の働きもののおばあさんたち、夜が暮れるまでいっしょに遊んでいる2匹の犬……この村から外に出ず、オリーブとコルクの木がぽつんぽつんと植わっている大平原を眺めながら暮らすひとの人生感はいったいどんなだろう。わたしのとはずいぶんちがうだろうということしか、わたしにはわからない。
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つい摘んでしまったアーモンドの実。殻はうぶ毛立っている。植えてみようかな。
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というわけで、これは絶対イチジク摘み用だわ! と決めつけて買ったカゴ。

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こんな白い花が一面に咲くらしい。かたちは桜に似ているかも。

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今回はあんまりロバに会えなかったのが残念。
ロバとすれちがうと、時間の感覚がぼよよんと狂う。
それが好き。

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イチジク摘みの様子(もちろん昔の)。うーん。かわいい。



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