L とにかく椅子なら圧倒的に座りやすそうだし、ものなら絶対的に使いやすそうなんだよ。

N 私が持ってる北欧デザインといったら、友だちがストックホルムの空港で買ってきてくれたバターナイフだけなんだけど、これがほんとうに持ちやすくて使いやすいの。憧れのジョージ・ジェンセンのカトラリーにしても、こんな小さいものからも、北欧デザインは人間本位って実感する。


ノンノン所有のバターナイフ。ラインのなだらかなこと。手にすっぽりおさまる。

L 人間本位?

N うん。いわゆる“デザインのためのデザイン”じゃあないの。機能主義ともいうみたいけど(エヘン!)。つまりは、ふつうの暮らしのなかで人間が使いやすように、とことん考えられてデザインされていて、かつ、家の中にあって見ためも美しいという。花瓶から街までデザインしたフィンランドの巨匠、アルヴァ・アァルトも、“人間がどんな生活活動をしているかが、そのもののフォルムを決める”って言ってるよ。

L “人にやさしい”ってやつ?

N やめて、その手垢のついたフレーズ。いまや、“癒し”と同じくらい気持ち悪い!

L じゃあ、用の美。

N うーん、簡単にいえばそうだけど、北欧デザインにはそれ以上の魅力があるような気がするなあ。自分といっしょに歳をとってくれそうな感じというか、からだにしっくりなじむ気がする。フィジカルにもスピリチュアルにも。

L 私はすごく清潔な気がするな。デザインも質感も……。


アルヴァ・アァルトの代表作、“パイミオ41”。こちらもなだらかな曲線、もちろん、すべて木製。1929年の作品。【B】
photo: Noboru Morikawa

N それから、いろいろ調べてて驚いたのはね、スウェーデンでは19世紀末に、“美しい生活運動”ってのが起こってるのね。農村から都市に出てきた貧しい労働者たちの劣悪な生活環境を改善しようっていうことだったらしいんだけど、近代的で便利な生活にするわけじゃなくて、えーと……(本をとりだす)“かつての農家に見られたようなシンプルで使いやすい家具、塗りや木彫りの手工芸を生かした装飾、庭のある暮らしを復活させようという試み”だっていうのよ……すごくない?

日本だったら、ぜったい“近代的で便利”に走るでしょ? 北欧の人は、天性で豊かさの意味を知ってるんだなあって思っちゃった。そこから、あんなデザインも生まれてくるんだと思うんだ。
“美しい生活運動”については、こちらを!