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第九回 海のなごり 高野文子『玄関』について


子どものころ、海でさんざん遊んで、疲れて寝ころび、目をつむると、
体のなかにゆらゆらと波を感じた。
目の前を上下する海面の、上にみえる空と、下にみえる海中と、
体を運ぶ圧力と、海の上と下でまるでちがう音。
それらが、目をつむると、まだそこにあった。
不思議で、心地よいものだった。

高野文子『玄関』には、冒頭、波のくだける場面が描かれる[図1]。
それは、子どもの目線でみた、迫ってくる波だ。



img 高野文子『絶対安全剃刀』
【引用図版・1】
白泉社82年刊・所収 177頁


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