 
■8月2日ごろ 旅の日程
日本人、とくに都会の人は、約束の時間を守ることで定評がある。僕のような自転車の旅では、体力、天候、地形、宿泊場所などの条件で進行しているので、予定はあくまで予定としかいえない。それでも出発から2か月以上たった現在、ほぼ予定通りに動いている。いや、普段の予定より、むしろ正確かもしれない。
団体旅行の嫌いな人にとっては、多少スケジュールの狂うハプニングがあったほうが、話題になって楽しくもあるでしょう。
アメリカ横断の計画を友人のSさんに話したところ、“トロントにもし来れるなら”との誘い、“じゃあ行くよ”と答えていた。7月の末か8月のはじめを予定しましたが、旅立つ3か月も前のことなので、旅行中に連絡することで話をまとめた。
7月28日(水)12時半から1時のあいだに、“ナイアガラの滝、カナダ側、見物台が段差のあるところ”と指定された。スペースシャトルどころか、携帯電話やカナダの地図さえ所持していない旅なのです。はたして約束の日、時間に着くだろうか。着いたとしても、段差のある見物台を見つけることが可能なのか、また多くの観光客のなかで1人を見出せるものだろうか。
……会えました。もちろん自転車に荷物をたくさん積んで、ナイアガラの滝を見物している人は1人しかいなかったので、探しやすかったのでしょう。
おにぎりに魚、漬け物をいただき、トロントに向かった。プリンス・ホテルと、この旅では飛び抜けた高級ホテルに泊めていただくこと2晩、その間“桂”でのお寿司、奥様の手造り料理を、たらふくいただいた。
2泊3日カナダの竜宮城は、あっという間に去ってしまいました。
トロントから帰りは、フェリーでナイアガラまで行くことにしました。ナイアガラからグランド・アイランドで1泊、翌日バッファロー市で写真家のOさんとお嬢さんと逢う約束になっています。
9時半にフェリーが出港とのことで、朝早めにSさんがクルマで埠頭まで送ってくれました。まだフェリー乗り場には1人の客も来ていないほど早く着いていた。Sさんは忙しい方なので、フェリーを待たずに帰っていただいた。
出港予定時刻が近づけど、船も乗客も姿を見せず、不思議に思い、駐車場の係員にたずねてみた。
“フェリーの会社は倒産したようですよ。しばらく見ていません”
“エッ!” 絶句する僕、朝の太陽が、ますます暑く感じられた。
“もう1社、第6埠頭から出ていると思うので、行ってみてはどうかね”
一目散に第6埠頭へ向かう。ここでも、“いやー、以前はありましたが、倒産したようですね”と同じことを言われた。さて困った。どうしよう。
トロントからナイアガラまで、クルマでハイウエイを通って2時間以上かかる。自転車なら2〜3日はかかる。そこからバッファローへ行かねばならず、とても自転車では日数が足りない。
こんなときは、パニックの心を落ち着かせるしか手はないんです。バスか鉄道をあたってみよう……自転車の荷が急に重く感じられる。
まずは、バス会社へと急ぐ。切符売り窓口にナイアガラ行きがあった。切符を買う前に自転車のことを言うと、“こちらの窓口ではわからないから、となりのビルへ行くように”……自転車が、ますます重くなる。
となりのビルの窓口では、長い列に並んだあげく、“荷物の発送は事務所に行くように”、“なお、自転車はビニール袋に入れること”を宜告される。
事務所は小さく、人があふれている。気長に待つべし。ようやく僕の番がまわってきたた。カナダドルは30ドルしか所持していないことに気づく。どうしても今日中にはナイアガラのグランド島に着きたい。
“バス会社は2つあるが、トレーニーウェイにしなさい。そのほうが、荷物を持った客が少ないでしょう。ビニール袋はこちらで購入できます”。11時半が次のバスであることも教えてくれた。
ヤレヤレ。
肩の力が抜けると、空腹を感じだしていた。1時間待ったあげく無事に自転車をバスに積みこみ、僕はバスの席に着いた。S婦人の造ってくれた丸いオニギリを、美味しく、有難くいただいた。
プリンス・ホテルでの王子様、今夜はグランド・アイランドのキャンプグランドで小さなテントにもぐりこむ。いつもより、地面がかたく感じられた。でも、予定のスケジュールになったことが、うれしい。
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