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■7月10日ごろ 真夏の祭典

アメリカの夏は、6月初旬の戦没者記念日(メモリアル・デー)にはじまります。地域によっては、まだ春の陽気が過ぎ去っていないところもあるが、それなりに夏遠からじと、気分は夏です。

どんな小さな村でも、墓地の芝を刈りととのえ、花を添え、小さな星条旗を石碑に飾るので、墓地が華やかになるのもこのころです。朝10時ごろから、市長や村長を先頭にパレードが出発する。村長につづいて、元軍人の年長者が大きな星条旗を片手に行進する。観客の目にはよたよたしているように見えても、ご本人は昔のように気が張っている。軍服姿の胸に色とりどりの勲章をたくさん着け、銃を肩にかけるが、手の振り、足並みは皆だらだらしていて滑稽な一面もあります。若いころの軍服ですからお腹のサイズもちがい、妊婦のような退役軍人の軍服姿も少なくありません。

パレードは美しく飾られた墓地に入り、グリーンの芝に整列した軍服の一人がラッパを吹くと、静かな初夏の空遠くまで響いていきます。ラッパが終わると、銃を持った数名が古式にしたがって銃を操り、青空向けて発砲する。

国を守るため、民主主義を守るために、尊い命を犠牲にした軍人の冥福を祈る式典です。日本人にはピンとこないかも知れませんが、ごく自然なかたちで祭典が行われています。

メモリアル・デーを前後に大学は夏休みに入り、サマー・スクールを受講する者、学費のためのアルバイトと、今までとは異なったペースで忙しくなります。小、中、高はまだ休みに入りませんが、大人たちはボートの手入れ、キャンピング・カーの調整など、夏ムードがいっぱい。商売人は商売々々と、この日からいっせいに夏レートに変わる。

7月4日、独立記念日。アメリカじゅうが、真夏です。子供たちの学校も、年度が終了したばかり。日本の子供たちのように、夏休みの宿題に悩まされたり、登校日ももちろんありません。小、中、高校生のために、いろいろなキャンプが各地で行われます。たとえば野球、サッカー、テニス、乗馬など、あらゆる種類のスポーツや、写真、絵画、音楽の芸術部門にいたるまである。子供にとっては最高の楽しみだし、親たちも昔の想い出を追想しているかのようです。直接子供たちの指導にあたるのは、大学生のアルバイトが多いようです。

こうした計画も、すべて独立記念日が終わった次の週からです。7月4日は、家族や親戚、友人家族が中心となって楽しむのが一般的といえるでしょう。私が自転車をこいでいる道路も、7月4日(金曜日)の午後から交通量が一段と増えました。とくに今年は連休になります。通る車の7割が、キャンピングカーか、ボートを引いているかでした。小さな星条旗を車につけて、得意になっている人もいます。

キャンプ場でも家の庭でも、この日はアメリカじゅうがバーベキューです。小さな携帯用からガスボンベ付きの大型バーベキュー用具が店頭に並び、豆炭(チャコール)が山積みでバーゲン、コーラやビールに大売り出しの赤札がつくのも、今です。スーパーマーケットへ行くと、ソーセージの山。ステーキ用牛肉など、大安売りで、日本人の目からは、こんなに大きな肉をどうして食べるのだろうと思うわけですが、山のように買って帰る人・人・人。

夜は、花火。NYの花火も有名ですが、各都市、村々で花火が打ち上げられる。アメリカ人も、花火が好き。ちょうど、ミネソタ州のミネアポリスとセントポールのツインシティを通過するところだったので、市の中央で打ち上げられる花火を見ることができた。車で来た家族たちは、ハイウェイの脇やループの芝に乗り上げて駐車している。今夜ばかりは警察も、“お互いに注意して、楽しい夜の祭典を”と言わんばかりに、寛大な態度でした。見物人も、新車だろうが、なんだろうが、おかまいなく車のボンネットや屋根に乗って見ている。

日本は“花火とスイカ”“花火と夜店”だが、こちらは“ステーキ、そして花火”と、文化のちがいを見たような気がする、真夏の祭典でした。

とてつもなく大きな国、合衆国アメリカ、あらゆる人種、文化、宗教を共有しているこの国が、アメリカ人であることを意識し、誇りをもつためのお祭りなのかもしれない。

以前、ロスアンジェルスで日系アメリカ人の小学校の先生に、“人種の異なる子供たちに、アメリカ人としての意識をどのように教えるか”と質問したことがある。先生いわく、“まずは、国歌と国旗でしょう”と答えが返ってきた。今、アメリカ国民は、こぞって独立記念日を祝っている。