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■6月20日ごろ モンタナ州の印象

ロッキー山脈にはじまったモンタナ州は広い。州の入口で時間帯が変わり、出口でまた時差を調節しなければいけない。あまりの長さに、この州を横断した日数や距離を忘れてしまうほどです。 “BIG SKY”というニックネームをもつだけあって、雪に覆われた山脈を出ると、くる日も、くる日も、僕の目線から上は、空。モンタナが好きになり、ここで印象をつづることにします。

[モンタナの陸上交通機関]
鉄道の利用は、以前の日本を思わせます。ワシントン州から続くこの線路には、何十台と連ねた長い長い貨物車が頻繁に行き交う。ヒュンダイやナンジと大きな文字入りの、韓国系の荷物を運ぶ貨車も多く列に連なっています。客車(アムトラック)とも、1日に何度もすれちがいました。警笛を鳴らし、手を振ってくれる運転手には励まされます。貨物の鉄道利用が多く、路上の大型トレーラーが少ないことは、“地球にやさしい”。 夏のバケーションにはまだ少し早い時期だが、定年退職で余生を楽しむ初老夫婦のキャンピング・カーが目立つ。友だちと2台、3台と、連ねる組も少なくない。ダンプやトレーラーの運ちゃんも、やさしく自転車の僕をよけて通り、手を振ったり、ホーンを鳴らしてくれる。バイクは、若い人から60代までさまざま、すれちがうたびに、親指を上げ、“いいぞ! がんばれよ!”と……。
僕がモンタナに入った週に改正されたのだが、それまでは、アメリカに唯一残るスピード制限のない州だった。TVのインタビューに答える中年のご婦人は、“いつも110マイル(170km)で走っているのに、75マイル(117km)だなんて”と、ぼやく。なにしろ平らで直線、しかも車がほとんど通らないから、飛ばすのも当然だろう。またこの州にかぎり、自転車でハイウエーを走れるし、休憩所でテントを張ってキャンプをしてもいいのです。

[景色]
人は、“平らで殺風景”というが、モンタニアン同様、僕は好きです。光がなんとも言えません。空が大きく、空気が乾いているからでしょう。大地の麦や草原が風にたなびき、柔らかい絨毯が丘にしきつめられたようです。雲の影と光線が緑に映り、風にゆれるさまは、大地を舞台にした抽象芸術……時間の許すかぎり見入っていたい。 厳しい冬景色など、とても想像しかねる。立ち寄ったバーのオヤジ、ボブの話では、2年前の冬、この店でパーテイーがあり、30余名の客が急に訪れた大雪に閉じこめられてしまった。吹雪はやまず、4日目ついに救助隊が出動したとか。今年は5月初旬にも、30センチほど積もる大雪が降った。そのせいか、いつもなら蚊の発生に悩むが、今年はその気配がないと喜ぶ。

[食事]
肉、肉、肉です。カリフォルニアのように、量はありません。日本人にも適量です。野菜といえば、栄養やビタミンの少ないレタスだけ。レストラン(いや、食堂ですね)で、“野菜は?”とたずねると、“ポテト”と答えが返ってくる。コーンもポテトも野菜……いや、それ以外はなしに等しい。 土地の人は、コーヒーが好き。シアトルでもそう思いましたが、スターバックスの出現は、当然の帰結でしょう。モンタナでは、スーパーにもコーヒー・コーナーがあるし、レストランは大小の差なく、どこでも頻繁につぎたしてまわる。こちらが断るまで飲み放題、ただしコーヒーは薄く、ばん茶のようなもので、いくらでも飲めます。 ビールやワイン、酒類は、よほどのレストランかラウンジ以外では飲めません。1日自転車をこいで、夕食にビール、というわけにはいかないのです。コーヒーは、朝飲み過ぎたので、“水”と悲しい声でウエイトレス姫に告げるこの姿。どうやら酒のライセンスに問題があるらしい。 そのわりには、バーとカジノが多い。小さな町に12軒ものバーがあるという。昼間のバーは男の世界、といっても定年前後の男が暇つぶし、薄暗いバーでポーカーやスラッグマシンでギャンブルをしている(モンタナはギャンブルも州法で公認)。内装や照明は変わったといえ、ビリヤードのテーブルもあり、西部劇文化そのもの。僕もシャワーをあび、町に出てバーに入る。一昔前ならここで、殴り蹴られるシーンだろうが、今は人類平等、平和な文化人で、僕にもビールをくれる。ビールの小売は12本、24本のパックで、1本の小売はしてくれない。自転車にもつめないので、“水”に馴れるしかありません。

[感じたこと]
モンタニアンが、親切で、気さくで、オープンであることは、前回書きました。 平原に、ポツン、ポツンと家がある。遠くに、遠くに見える隣組……事故や急病なら、電話連絡でヘリコプターでも飛ばして助けてくれるだろうが、火事になったらどうするのだろう。自分で消火するか? 全焼でしょうね。また、野生の動物やならず者に襲われたら? 西部劇のように女、子供だけなら、当然自衛のため銃が必要となるのだろう。
飛行機で農薬を散布している。地上5メートルぐらいの高さで、あたりかまわず飛行しているので、僕は飛行機が飛び去るまで待った。息を止めて自転車をこぐわけにもいかず、農薬は目に見えないが、悪臭は残る。もし枯れ葉剤だったら……。モンタナ州ルート2、RUTTER ST.、もしもの場合は、黄色のセスナが犯人だから、よろしくお願いします。