navidate
■5月25日ごろ 谷間の村の朝食風景

白夜とは言えないまでも、ここまで来ると日は長い。目的地につくのが5時前後と定着してきた。村はたいてい谷間にあるので、1日の終わりの急な下り坂はありがたい。宿を探し、荷をほどくとシャワーをあびる。着替えて、ビール1杯を求め食堂かバーに足を向けると、まるで自分がウェスタン・ムービーに出てくる旅人になったような気になる。まだこの地は、人をそんな雰囲気にさそい込んでくれるから嬉しいです。

1軒の店を見つけたが、“早朝から昼食まで”とあるので朝食はここと決めた。僕ごのみの外見。FOODと書かれた看板は10年以上も前に落ちたのだろう、店の横の壁に捨てるように立ててある。窓もきしみ、入口のドアを何年も飾りつづけたクリスマスの赤いリボンは、風が吹いてもなびかない。カウボーイが緊張気味に入口の扉を開ける気分で、といえばいささか大袈裟だけど、朝メシのために店に入った。

コの字形の広いカウンターがあり、両脇の窓に面して4つほどのテーブルが、何10年も動かずおかれているようだ。土地のランバー・ジャック(木こり)たち5、6名がすわっていた。カウンターの左奥に近い席に僕はすわった。

ジーンズにシャツ、店に入ってきて間もないのか一人はまだカウボーイハットをかぶっている。ほとんどの人が現役をしりぞいていそうだ。しかし皆、ゴツイ体格にゴツイ顔、ゴツイ手をしている。夫婦で来ている人たちもいた。ゴツイ連中だから、小さな異邦人の侵入など気になるわけがないのだろう。

居心地は悪くない。玉子焼とベーコン、ハッシュドブラウンを注文しコーヒーをもらう。朝食の値段は均一、飲み放題のコーヒーを含めて3ドル50セント。

男たちはコーヒーをすすりながらダイスを楽しんでいた。5、6人が25セント“クォーター”を賭けて、朝のひとときを楽しんでいる。僕の横にいるやせぎすの男がゴツイ手で器用にタバコを巻き、吸いはじめた。かみタバコを口に入れる男もいる。この店には、ラジオもテレビも、電話もない。山奥で携帯電話も存在しない。誰一人不自由を感じていないどころか、これが当然のことと生活を営んでいる。

店主も客と同年配の女性で、シェフ兼ウェイトレス兼バスボーイ、太ったからだで、両手を大胆にふりながら広いカウンターの中を動き、手ぎわよく働いている。パークする客を窓ガラスごしに見わけ、客の飲みものを用意する。客が何を食べるかも心得ているうえで、一応客が席についたころ間を見て注文をうかがう。なかなかの心づかい。ランバー・ジャックたちのコーヒーカップに薄いコーヒーをなみなみつぎたしてまわる。ジョークやからかい、ののしり合い、笑い声が飛びかう。コインがテーブルの端から端をすべる。帰る客、新入り客、皆この村で生まれ、育ち、働いた男女であり、気心も知りつくしている仲間のようだ。

誰がどうして決めたのか、最後のダイスらしい。賭け金も一段と高く、1ドル紙幣だ。隣のオジさんは、今日の予算をオーバーしたと見え、丸いタバコの缶から折りたたんだ1ドルを取り出す。ダイスを振る。5が5つ出た。勝ったと思いながらもポーカー・フェイス。ダイスは1まわりしたが、彼に勝る者はいなかった。西部劇のように札を8、9枚あ集めてうれしそう。店主のウェイトレスに1ドルのチップをわたす。彼女にとっては毎日誰かが同じことをするのだろう、馴れた手つきで、無言で受け取り、うす汚れたエプロンのポケットにつっこむ。時間ということでもなかろうが、1人去り2人去りしていく。小鳥が1羽、2羽と集まり、えさを探し、合図もなく散るように。

僕もこの店を出てペダルをこぐ。

今週末はメモリアル・デー(戦没者記念日)の連休、アメリカでは今週から夏がはじまります。交通事故も年間最高となるので、要注意。モンタナ州の山に入ると湖も多く、モーターボートを引っぱる車が目立つ。

家族中心のバケーションだが、子供も独立した夫婦は、2人きりか友人夫婦と出かけるケースがほとんどだ。定年後も好きなボートを引っぱって、湖に浮かべ静かに釣りや食事を楽しむ。大自然のなかで孤立した空間をたやすく手に入れ、風に吹かれる。日暮れには山小屋のバーに集り、ファイアープレイスの前で語り合う。

西洋人はいつも夫婦一緒だが、日本人、アジア人は、年をとるにつれ男女別々に旅や行楽を楽しむことが多い。文化や習慣のちがいということになっているが、品種の異なった動物(人間)ではないかと思う。 日本人は盆栽を愛し、盆景、盆石に満足し得る。碁盤に碁石があれば、何十年も楽しく没頭する徳を身につけている。

ダイスを楽しむ男たち、大自然のなかに溶けこむ夫婦、碁会所に通うご隠居さんも、皆等しく人生を楽しんでいるのだ。すばらしいことではないか。