Following the Pass of Polar Bears.


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これは夢であってくれ。せめて映画やテレビの一場面であってくれ……まさに大自然に自分の足で立っているのだ。五感を総動員しないと、白クマの気配を察知できない。額に皺を寄せて、思いっきり目を開けながら見る。何度かトラックを押したが、2〜3トンもあるトラックは、エンジンが始動するほど動かせない。“HISA、 車の中に戻ろう”と、いつも達人ぶりを発揮するブライアンにも、今日ばかりは無理かもしれない。
“HISAの作戦は?”とブライアンは、私を試すように問いかけてくる。
“銃とある限りの弾を持って、犬の所まで行く。犬にシロクマから守ってもらうために、少なくとも1頭は逃げられないように鎖につないで引き、あとの2頭を鎖から離して道路まで歩こう。そのほうが、8頭もシロクマがいるここより安全にちがいない。あとは、何時間かかるかわからないが、町に向かって歩こう”。ブライアンが以前話してくれたことを思い出しながら、自分なりの考えを伝える。
ブライアンは、“そうだな……問題は、荷台に載っている犬の餌(肉のかたまり)100キロだ。餌をなるべくトラックから離れたところに捨てなければならない”。と腕組みをして言う。大自然の達人は、飢えたシロクマに、トラックの荷台の肉があることを絶対教えたくないのだ。もし、トラックに肉のあることをシロクマが覚えれば、町の人のトラックを襲うだろう。彼の作戦の中には、2人が助かればいいだけでなく、自分たちの行動が他へおよぼす影響まで考えている。
自分の作戦が、あまりにも自分本意であったことを恥じる。自然に生きる達人になる道は、とてつもなく遠く感じられる。そうは言うものの、白クマが、犬の近くに肉があることを覚えたら……どうすればいいのだろう……。
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