Following the Pass of Polar Bears.


Photo

遠くに白クマが1匹見えるだけで、危険はない。あたりには、昨夜の内に歩き回っていた白クマの足跡がいっぱいある。格好の写真の対象物だ。
“HISA、車に乗れ!”とブライアンが叫ぶ。車の近くには、白クマはいないはずなのに、彼の様子がいつもとちがう。カメラ機材を抱えて車に転げこむ。これ以上ガタつくこともないほど古い車なので、乗ってもドアが閉まらない。バターンと音がするまで喧嘩腰でドアを引っ張らない限り、1回でドアが閉まったことはない。慌てればなおさらドアは閉まらない。ドアが閉まる前に、彼は車をものすごい勢いで走らせる。私は、左手でイスの背にしがみつき、右手は天井に着いている取っ手を握る。何事がおこったのか。
“チキショー”、いつも明るく、楽しいブライアンが怒鳴る。イスに置いたカメラが飛び跳ねる、飲みかけのコーヒーの入ったカップが床に落ちてコーヒーをぶちまける。150メートルくらい前方で、若い白クマがブライアンの犬に襲いかかっている。急にのどがカラカラに乾くのを感じる。車のクラクションをけたたましく鳴らすと、それに気づいた白クマは、少し犬から離れる。しかし、すぐにまた襲いかかる。1996年に、彼は8匹の犬を白クマに食われたそうだ。
ズドーンと、いつの間にか彼は銃を発射しクマを撃退しようとする。効き目がない、ズドーンと2発目を撃つ。“HISA、実弾!”といって手を差し出す。めちゃめちゃに散らかってしまった後部座席に弾があるはずだ。どこにあるかわからない、こんな時まったく役に立たない自分がはがゆくてしかたがない。“大変だ。犬がやられる。弾がない”。
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