title その24
イルカの海、伊豆・御蔵島


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御蔵島の海底は、火山の影響で黒っぽい岩が多い、その独特の雰囲気の海底を、イルカたちは編隊を組んで泳いできた。


イルカを見に伊豆七島の御蔵島に行ってきた。島の周辺に100頭以上のバンドウイルカが棲みついていることがわかったのは、かれこれ10数年前のことであった。島の周囲が切り立った崖になっているため、住民すら容易に海岸に出られない、特殊な環境がイルカたちに幸いしたのか、少しずつ数を増やしながらこの10数年、安定して島の周囲で暮らしている。また、そんな彼らの姿を一目見ようと御蔵島や付近の三宅島から、イルカ・ウォッチングにやってくる観光客の数は、年々増えつづけていると聞く。

三宅島に住む魚類生態学者のジャック・モイヤー博士は、私が海の生き物を撮影する仕事をするようになって20数年来の友人である。彼の案内で三宅島から船を出し、イルカ・ウォッチングをした。南風の強い日であった。御蔵島南東部の海岸近くで、7〜8頭のイルカが船に近づいてきた。さっそくモイヤーさんといっしょに海に飛びこみ、彼らを遊びに誘う。もう70歳が目前のモイヤー博士、素潜りで10メートル近くまで潜り、イルカと絡み合うように遊んでいる。大丈夫か?。

ここのイルカは、地元の人々が彼らの習性をきちんと理解し、しつこく追いかけたり、驚かせたりしないため、落ち着いて人々のまわりを泳ぎ回り、快適な距離を保ちながら遊んでくれる。久しぶりに見るイルカたち、本当に素晴らしい生物である。

最近の“イルカブーム”とも呼ぶべき熱狂を見ていると、イルカを神秘的な存在と見る向きもあるが、私にとってイルカの魅力とは、素晴らしい“野生”の生物であるということだ。つい最近、アメリカの新聞で奇妙な記事を見かけた。それは、イルカという生物のもつ残虐性とイルカ・ウォッチングの危険性について書いてあった。記事は、イルカが食べる必要のない生物までいたぶり殺す習性について述べており、そのような残虐性のある生物といっしょに海を泳ぐイルカ・ウォッチングは、危険性をはらんでいると結んであった。

欧米人の一方的ともいえるイルカ贔屓(びいき)の果てに、彼らが“神の使い”にふさわしい行動をとらないという失望感を含んだ記事を見て、我々人間が、いかに自己中心的に他の生物を判断しているか、身にしみて感じさせられた。“野生”には、情け容赦ない残虐性も、神々しいまでの気高さも、そして頬ずりしたくなるような可愛さも含まれているのだと思う。そのすべてを愛することが大切なのだ。イルカたちと泳ぎながら、そんなことを考えていた。


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バンドウイルカとたわむれるモイヤー博士。もう70歳近い老体に鞭(むち)を打って10メートルの素潜りを決めていた。
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海にお椀を伏せたような形の御蔵島。切り立った崖が人々を海岸に近づけず、イルカたちの楽園ができあがった。



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